PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画の言葉『ダンサー・イン・ザ・ダーク』セルマのセリフより

「心の声を聞くわ」

©ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, TRUST FILM SVENSKA, LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED, FRANCE 3 CINÉMA & ARTE FRANCE CINÉM
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

心の声を聞くわ

By セルマ

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』より

多くの人にとって、人生は迷いの連続です。周囲の雑音に惑わされて進むべき道を見失いそうになったとき、あなたは誰の声に耳を傾けますか?

ラース・フォン・トリアー監督の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の舞台は1960年代のアメリカ。移民でシングルマザーのセルマ(ビョーク)は、遺伝性の目の病気で失明寸前なのを隠して工場で働いていました。同じ病気を患う息子(ヴラディカ・コスティック)の手術代のためです。しかしようやくお金が貯まった頃、ある人物によってお金を奪われてしまったセルマは、殺人を犯してしまいます。取り戻したお金をなんとか医者に渡した直後、セルマは逮捕され絞首刑を言い渡されてしまいました。

「心の声を聞くわ」

これは、獄中のセルマが親友(カトリーヌ・ドヌーヴ)に対して言った言葉です。息子の手術のために貯めたお金を使って、弁護士を雇うべきだという親友の説得を、セルマは頑なに拒否します。彼女にとって息子の目を治すことは、自身の死や名誉よりも遥かに重要なことだったからです。「(私は自分の)心の声を聞くわ」というたった一言に、セルマの強い意志が表れていました。

死をも恐れず目的へと突き進むセルマに、迷いはまったくありません。世間や親友の声に取り囲まれる中、彼女は自分の声だけに耳を傾けると決めたのでしょう。客観的に見るとセルマの人生は悲惨ですし、彼女の決断は全肯定できるものではありません。でも、揺るぎないゴールを見つけ、それを達成したセルマの人生は本当に不幸だったのでしょうか? もしかしたら人生とは、真の目的と行くべき道を示してくれる「心の声」を探す旅なのかもしれません。

BACK NUMBER
FEATURED FILM
スタッフ:
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
音楽:ビョーク(サントラ盤「セルマソングス」ユニヴァーサルミュージック)
撮影:ロビー・ミュラー

キャスト:
ビョーク/カトリーヌ・ドヌーブ/デビット・モース/ピーター・ストーメア/ジャン・マルク・バール/ジョエル・グレ

2001年6月21日リリース
発売元:松竹/フジテレビ/アスミック
©ZENTROPA ENTERTAINMENTS4,TRUST FILM SVENSKA,LEBERATOR PRODUCTIONS,PAIN UNLIMITED,FRANCE 3 CINEMA & ARTE FRANCE CINEM
セルマ(ビョーク)は女手ひとつで息子を育てながら工場で働いている。彼女を母のように見守る年上の親友キャシー(カトリーヌ・ドヌーブ)、何かにつけ息子の面倒を観てくれる隣人ビル(デビット・モース)夫妻、セルマに静かに思いを寄せるジェフ(ピーター・ストーメア)。様々な愛に支えられながらもセルマには誰にも言えない悲しい秘密があった。病のため視力を失いつつあり、手術を受けない限り息子も同じ運命を辿るのだ。愛する息子に手術を受けさせたいと懸命に働くセルマ。しかしある日、大事な手術代が盗まれ、運命は思いもかけないフィナーレへ彼女を導いていく…。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
シェアする