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映画の言葉『あなたの顔の前に』サンオクのセリフより

「顔の前にあることだけを見ることが出来たら何も怖くありません」

© 2021 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

顔の前にあることだけを見ることが出来たら
何も怖くありません

By サンオク

『あなたの顔の前に』より

あなたはよく夢を見ますか? 私は見ます。しかも、大抵は細かく内容を覚えている状態で目覚めます。でも、子どものころに「他人の夢の話ほどつまらないものはない」と何かに書いてあるのを読んで以来、誰かに夢の話をすることは滅多にありません。

名匠ホン・サンス監督の最新作『あなたの顔の前に』は、長く暮らしていたアメリカから、誰にも理由を告げずに帰国した中年女性のある1日を描いた作品です。妹の家で目覚めたサンオクは、妹と朝食をとってから散歩し、甥が経営する店や昔住んでいた家に立ち寄り、約束していた人物と食事を共にする。たったこれだけの彼女の行動を通して描き出されるのは、1人の人間が持つ歴史や内面の驚くべき奥行の深さです。

穏やかな眼差しや達観した話し方、ふと心が動く瞬間の表情……彼女が動き、話すたび、歩んできた過去の厚み、感性や感情の豊かさが伝わってきます。彼女は決して動揺しません。出会った人物の言葉や行動が真心から生じたものでも、その場限りのでまかせでも、ただの偶然でも、同じように静かに受け入れます。なぜなのだろう? と不思議に思っていると、やがて彼女は自身の哲学を語り始めます。

「顔の前にあることだけを見ることが出来たら何も怖くありません」

サンオクは最後に会った人物にこう語り、世界は最高に美しいと言います。その根底には、ある秘密と過去の経験があるのですが、その内容はぜひ自分の目で確認していただきたいです。

良い夢を見たと言う妹に対して、サンオクはどんな夢だったのかを何度も聞き出そうとします。彼女にとっては、現実でも夢でも「顔の前にあること」には変わりがなく、同じように価値があり、美しいのだと思います。

今夜もきっと私は夢を見るでしょう。サンオクの哲学を聞いた今は、眠りにつくことがいつにも増して楽しみです。だって、夢は私だけが見ることができる、とっておきの美しい世界なのだと教えてもらったのですから。

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INFORMATION
『あなたの顔の前に』
出演:イ・ヘヨン チョ・ユニ クォン・ヘヒョ シン・ソクホ キム・セビョク ハ・ソングク ソ・ヨンファ イ・ユンミ カン・イソ キム・シハ
監督・脚本・製作:ホン・サンス
撮影・編集・音楽:ホン・サンス
製作:チョノンサ・フィルム
配給:ミモザフィルムズ

6月24日(金)よりホン・サンス監督作『イントロダクション』『あなたの顔の前に』、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか2本同時全国順次公開中
公式Twitter: @hongsangsoo_JP
© 2021 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved
長いアメリカ暮らしから突然、妹ジョンオクの元を訪ねて韓国へ帰国した元女優のサンオク。母親が亡くなって以来、久しぶりに家族と再会を果たすが、帰国の理由を妹には明らかにしない。彼女に出演オファーを申し出る映画監督との約束を控えていたが、その内面には深い葛藤が渦巻いていた。サンオクはなぜ自分が捨てたはずの母国に戻り、思い出の地を訪ね歩くのか?捨て去った過去や後悔と向き合いながら、かけがえのない心のよりどころを見出していく、たった一日の出来事が描かれていく。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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