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映画の言葉『独裁者』床屋のセリフより

「戦おう 約束を果たすために!
世界に自由をもたらし—国境を取り除き—貪欲と憎悪を追放しよう!」

独裁者
©Roy Export SAS
映画の中の何気ない台詞が、
あなたにとっての特別な“言葉”となり、
世界を広げ、人生をちょっと豊かにしてくれるかもしれない。
そんな、映画の中の言葉を紹介します。

戦おう 約束を果たすために!
世界に自由をもたらし—
国境を取り除き—
貪欲と憎悪を追放しよう!

By 床屋

『独裁者』より

ちょび髭にステッキ姿でおなじみの喜劇王チャップリン。彼の作品は笑えるだけでなく、社会風刺や悲哀といった複雑なテーマを感じ取ることができるのも大きな魅力です。

1939年にドイツがポーランドに侵攻した翌年に公開された風刺コメディ『独裁者』(1940)。チャップリンが演じるのは、ヒトラーをモデルにした独裁者ヒンケルと、戦場での負傷により記憶を失ったユダヤ人の床屋の2役です。世界征服を目論み、ユダヤ人を迫害しようとするヒンケルと、慎ましく暮らしたいだけなのに苦しめられる床屋らユダヤ人の姿が交互に描かれていきます。

ヒンケルは容姿も発言内容もヒトラーと似ていてゾッとしますが、本作は間違いなくコメディです。ドジでマヌケなヒンケルや周囲の人々にゲラゲラと笑い、おっちょこちょいで愛されキャラの床屋の言動にも笑みがこぼれます。しかし、笑いの裏で確実に残酷なストーリーが進行していきます。

ユダヤ人を迫害し、隣国に侵攻したヒンケル。一方、床屋は収容所に入れられます。しかし、風貌がそっくりな2人は、ひょんなことから間違えられて入れ替わってしまうのでした。

占領した隣国の大広場にて。大観衆の前で床屋はヒンケルとして演説をする羽目に。最初はボソボソと語りだした床屋はだんだんと声を強め、瞬きもせずに力強く人類の融和を説いて、拍手喝采を浴びるのでした。

「戦おう 約束を果たすために!」
(Now let us fight to fulfil that promise!)

これは、演説の終盤の言葉です。良き世界を作るという約束を独裁者は決して守ることがないと糾弾した上で、床屋はこう叫びました。そして、国境を取り除き、貪欲と憎悪と不寛容を追放しよう! と訴えたのです。※原文ではgreed(貪欲)とhate(憎悪)に加えて、intolerance(不寛容)という言葉が並べられています。

まだアメリカが第二次世界大戦に参戦する前に制作された本作。第二次世界大戦の悲劇を予言するかのような内容は今観ても衝撃的です。ぜひ『独裁者』を観て演説の全文を聞いてください。それは、まさに「不寛容」な現代社会に生きている私たちにとっても深く響く、永遠に胸に刻むべき人類への警鐘なのだと思います。

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BACK NUMBER
INFORMATION
フォーエバー・チャップリン ~チャールズ・チャップリン映画祭~
11月3日(木・祝)~ 東京・角川シネマ有楽町、福岡・中洲大洋映画劇場
11月4日(金)~名古屋・名演小劇場
12月30日(金)~大阪・シネ・リーブル梅田
12月~広島・八丁座 他、順次公開

順次公開劇場(10月25日時点)
札幌・シアターキノ、京都・アップリンク京都、静岡・シネマイーラ、佐賀・シアター・シエマ

©Roy Export SAS
FEATURED FILM
プロデューサー・監督・脚本・作曲:チャールズ・チャップリン
出演:アデノイド・ヒンケル チャールズ・チャップリン ポーレット・ゴダード ジャック・オーキー ヘンリー・ダニエル レジナルド・ガーディナー ビリー・ギルバート モーリス・モスコヴィッチ カーター・デ・ヘイヴン
独裁者ヒンケルと瓜二つのユダヤ人の床屋。ヒンケルが世界征服の狂気に憑かれて隣国への侵略を進めるなか、ひょんなことから床屋は独裁者と間違われて、大群衆を前に演説をしなければならないことになる――世界でもっとも愛された喜劇王ともっとも憎まれた独裁者は、わずか4日違いで生まれた。本作は、ヒトラーの全盛期に、チャップリンが笑いを武器に真っ向から立ち向かった問題作。狂気に憑かれた独裁者が地球儀と戯れるダンスシーンや床屋の髭剃りの爆笑シーンなど、映画史に残る数々の名場面!自由と平和を呼びかけるラストの感動の演説は、時代を超えて今も響き渡る。
PROFILE
映画・演劇ライター
八巻綾
Aya Yamaki
映画・演劇ライター。テレビ局にてミュージカル『フル・モンティ』や展覧会『ティム・バートン展』など、舞台・展覧会を中心としたイベントプロデューサーとして勤務した後、退職して関西に移住。八巻綾またはumisodachiの名前で映画・演劇レビューを中心にライター活動を開始。WEBサイト『めがね新聞』にてコラム【めがねと映画と舞台と】を連載中。
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