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いきなりですが、『男はつらいよ』の「男」って、誰だと思いますか?
普通に考えれば主人公の寅さんでしょうが、私には寅さんがつらさを抱えた人にはどうも見えません。何を言っているんだ、あの明るさの奥に寅次郎の哀愁があるんだよ、わかってないなあと、ファンには怒られてしまいそうですが、寅さんはすでに「つらさを超えた人」だと思うのです。
本当のつらさを抱えているのは、むしろ脇役たちではないでしょうか。小さな団子屋を営むおいちゃん、サラリーマンとして家族を養う博、零細企業で社員をかかえるタコ社長。下町の、決して裕福とはいえない暮らしの中で日々をまっとうに生きようとする人々です。もう少し言ってしまえば、さくらも、おばちゃんも、毎回変わるマドンナも、笑顔の奥にそれぞれの人生を背負っています。
つまり、このドラマは今風の文脈に直すと『男も女もみんなつらいよ』なのです。たいへんな毎日を、肩寄せ合いつつ明るく助け合いつつ過ごしている彼らの姿に、多くの人の共感があるのかなと思います。
さて、時代に関係なく、生きにくさを感じたときに人が求めるのはやっぱり人なんだなと思ったのは、「シェア」という言葉が増え始めたときでした。SNSなどによる情報のシェア、シェアハウス、シェアオフィスなど、実際の暮らしにまでその概念は入りこんできています。
社会の高齢化が進み、経済的にも縮小が予想される時代、人々は他人とのつながりを求め、つらさも喜びも分かち合おうとしている。私にとってはこの「シェア」という感覚、『男はつらいよ』の世界の住人たちの行動と被ります。
寅さんみたいにみんなのハブ(元締め)になって、人と人をつなげることで「シェア」を提案する人は確かに魅力的。でも、シェアをするときにもっと重要なのは、その提案を受け入れ、実際に分かち合っていく現場の人たちです。しっかりと地に足をつけて暮らしている人たちがシェアしてくれてこそ、絆は切れることなくつながっていきます。寅さんに文句を言いながらも、あたたかく受け入れ、上手に巻き込まれていく力を持った脇役たちが、まさに縁の下で、寅さんを、そしてこの映画の世界を支えているのではないかと思うのです。
私も、なにかしら情報を発信するときはシェアしてもらう側になります。その一方で自分自身も有益な情報や価値を誰かと積極的にシェアしたい。寅さんシステムを現代風にしたらどうなるだろう。今大きな関心を持っているのは、そんなテーマです。
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『男はつらいよ』に、スープの登場シーンがあります。有名なのは第1作で、さくらのお見合いに付き添った寅次郎がレストランで出されたスープを思い切り音を立ててすする場面。日本でもまだまだ音を立てて食べることがマナー違反であることが浸透していなかった時代に、寅次郎の生まれ育ちをうまく表現していました。
もうひとつ印象的なのは、第14作『寅次郎子守唄』で、工場で右手を怪我した博がうまく食事ができずに苦労する場面で、おばちゃんがこう言う場面です。「気が付かなかったねえ、ソップでも作ってやればよかったねえ」。
日本人はもともとスープ好き。文明開化で西洋料理が導入されてから独自のスープ文化ができ「ソップ屋(オランダ語でスープの意味)」という商売も生まれました。今「ソップ」という言葉は、お相撲さんのちゃんこ鍋にその名称が残っています。スープのことを「ソップ」という人が寅さんの時代はまだいたのだなと、ちょっと面白かったです。
おばちゃんが博に作ってやるならこんなソップだろうかと思いつつ、食べやすく腹持ちがよい、思いやりの心にあふれたソップのレシピを考えてみました。
◎映画のスープレシピ:
暮らしを助け合うスープ
(鶏とごぼう、大根のソップ)
※手羽先、手羽元など骨付き肉でもよい(その場合は300~400g)
ごぼう…1/2本
大根…10センチ
米…大さじ1
塩…小さじ1
ごま油…大さじ1/2
水600ml
(好みで)柚子胡椒や七味唐辛子、豆苗
◎つくり方
- 1鶏もも肉は一口サイズに切る(唐揚げ用サイズを買った場合は半分に切る)。大根はいちょう切りにする。ごぼうはたわしで洗い、ささがきにして水にさらしておく。米はサッと洗う。
- 2鍋に大根、ごぼう、米を入れ、水100mLとごま油を回し入れ、その上に鶏肉を乗せる。鍋のふたをしっかりして中火にかける。20分ほど、ときどきふたをあけて水が減っていないか確かめつつ、野菜と肉を蒸し煮する。
- 3米がやわらかくなったら、水500mLと塩を加えてあたためる。器に盛り、好みで柚子胡椒や七味唐辛子、豆苗を加える。
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