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『プラダを着た悪魔』の公開は2006年、もう13年も前なんですね。当時の私は、フリーのライターとして小さな仕事は途切れなく来るものの、これという専門性はなく、キャリアも積み上がらず、家事や子育ての板挟みでうつうつとしていました。
だから、アン・ハサウェイ演じるエディター見習いのアンディが、横暴な上司であるミランダのもと、一流のファッション誌の世界で上へ、上へと駆け上っていく姿は痛快に感じられたものです。仕事が忙しくなるにつれ、恋人や親友とのすれ違いに悩むアンディに共感した女性は、私を含めて多かったのではないでしょうか。
「仕事か恋か」(結婚するとこれは「仕事か家庭か」へとスライドしていくわけですが)、女性が社会進出をはじめてから、繰り返し描かれてきたテーマです。家族や恋人、親しい人との関係を最優先することが女性の美徳とされる日本では、仕事をしようとすると、かなりシビアに突きつけられる問題でもあります。
でも、最近あらためてこの映画を観て、ああ、私の視野はずいぶん狭かったんだなと気づきました。アンディは決して仕事か恋かという小さな選択をしたわけではなかった。「華やかな世界を創造するファッション誌のエディターとしての生き方」と「真実を追いかけるジャーナリストとしての生き方」どちらの道を生きるかという、より大きなスケールの選択をしたんだと思えたのです。彼女が選んだ瞬間から、仕事も人間関係もリスタートしていく。映画のラストは、次の物語のはじまりでもあります。
映画の終盤に、ミランダがアンディに向かって「あなたは私に似ている」とつぶやく場面がありました。おそらくそれは仕事の手法ではなく、進む道を自ら決断するという生き方のこと。本質的な相似を感じてふと漏らした言葉によって、ミランダは思いがけずアンディに自分の道を選べと伝えてしまったのです。良いシーンでした。
彼女たちとは比べものにもなりませんが、私もスープ作家という、突拍子もない肩書で仕事をはじめる!と決心したところから人間関係や仕事がみるみる変わっていきました。数年たって、自分のさまざまな悩みが自然に溶けていたことに気づきました。決断し、踏み出すことの大きさを感じます。
仕事の悩みも、恋の悩みも、結局は自分の生きる道に沿っているかどうかであり、ひとつの問題なんだと思います。仕事か恋かの選択を越えて、自分の人生に向き合うことが、女性の自立にとってはすごく大事なこと。『プラダを着た悪魔』に登場する、わが道を行く女性たちに元気をもらいつつ、私自身も自分らしいランウェイを、歩いていこうと思っています。
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仕事か恋か、ではなく「ランウェイ」か「ジャーナリスト」か、「プラダ」か「ノーブランドのセーター」か、そんな選択をしたアンディ。彼女が選び取った世界に合いそうな、シンプルで質実なスープを作ってみました。ミランダが皮肉って言うところの「さえないブルーのセーター」で、気取りなく食べられるスープです。
スペアリブと大根をごろっと煮込んで塩で食べます。時間は多少かかりますし見た目は地味ですが、骨から出た濃厚なだしを大根が吸って、うまみたっぷりのご馳走。決して難しくありませんので、ぜひ作ってみてください。
◎映画のスープレシピ:
『骨太に生きる、女のスープ』
(スペアリブと大根のスープ)
大根…10cm
塩、胡椒…適量
(あれば)長ねぎの青い部分
(好みで)小口切りした青ねぎ 白ごま レモンの輪切りなど 少々
◎つくり方
- 1大根は皮をむき、横半分にしてから縦4等分にする。豚のスペアリブは塩小さじ1をすりこんで20分ほど置き(所要時間外)、熱湯をかけておく。
- 2大根とスペアリブを鍋に入れ、具材がかぶるぐらいの水、塩ひとつまみを入れて中火にかける。長ねぎの青い部分があれば、一緒に鍋に加える。
- 3煮立ったらアクを取り除き、弱火に切り替えて1時間ほど煮る。塩で味をととのえ、胡椒をふる。器に盛り、好みで青ねぎや白ごま、レモンの輪切りを添える。
※2021年3月19日時点での情報です。
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