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「スープ作家」という肩書きで活動し始めた頃のこと。名刺交換をすると、「素敵な肩書きですね!」と言ってくれる人がいる一方、目の奥にちらりと笑いの色が見える人も少なくありませんでした。そうですよね、いきなり初対面で「スープ作家です」と名乗られたら理解に時間がかかって当たり前。戸惑いを隠すための笑いでもあったのでしょう。それに、誰よりも私自身が、「スープ作家」と名乗る自分を軽んじていたところがあったのです。
人と違う、標準からちょっと外れた人や行動を、私たちは口では「多様性」などと言いながら、遠ざける傾向にあります。つい顔に出てしまう冷ややかな目線を隠すために、人はとりあえず作り笑いをするのかもしれません。
懐かしの『アメリ』が、20年ぶりにデジタルリマスター版で再上映されます。人づき合いを全く経験しないまま大人になったアメリ。アパートの壁の奥に隠されていた古い思い出ボックスを持ち主に返すミッションをやり遂げたのをきっかけに、他人との繋がりに望みを見出したようです。青年ニノに恋心を抱いて、世界一周りくどい出会いを仕掛けるのですが、そのユニークさに観ているこちらはついくすりと笑ってしまいます。本人は笑うどころかいたって大真面目。だからこそ面白いし、それがアメリに唯一無二の魅力を感じるところなのではないでしょうか。
『花とアリス』もまた、親友同士の二人の少女の、純真であるがために少しズレたキャラクターが際立つ作品です。高校生になった花は、憧れの男子生徒に彼が記憶喪失になったとでっちあげ、自分と彼が恋人同士だったという突飛な嘘を信じ込ませてしまいます。そして突っ込みどころ満載のこの嘘をどんどんこじらせていきます。もちろん嘘はいけません。でも彼女の生真面目さがこちらに伝わり、最初は笑っていたこちらも、つい応援したくなるのです。
一方のアリスは、芸能界を目指してオーディションを受け続けています。見ているこちらがハラハラするほど自己アピールが下手な彼女を含め、夢を追う人たちが必死にアピールする姿はどことなく滑稽です。それでもアリスは自分で自分を評価して落ち込むこともなく、しぶとく淡々と夢を追い続けました。名シーンと言われる終盤のバレエのシーンには、おかしみを突き抜けた美しさを感じます。
そういえば、私の仕事が増えたのも、躊躇なく「スープ作家」と名乗るようになった頃からでした。周りから見て奇異なことでも、やっている本人が自分を笑わずに信じて前に進めば、その先には新しい世界が現れます。二つの映画のまっすぐな登場人物たちにも、目の前が少しひらけて光が差す、そんな瞬間が待っています。
人がどんなに笑っても、自分だけは自分を笑わない。それが自信をもって生きるための、最初の一歩なのかなと思いました。
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あらゆる食材をスープにしていく中で、変わったレシピや、ちょっとふざけたようなレシピもたくさん生み出してきました。
「えっ、そんなのもスープですか?」と驚かれたり、「冗談でしょう」と笑われたりしたようなスープもたくさんあります。自分が思ったものを、かたくなに「これはスープです!」と言い張ってきたら、だんだんみんなが面白がってくれるようになりました。
ご紹介するフルーツのスープもそんなスープのひとつです。いちご、もも、オレンジ、キウイ。さまざまな果物を試した中で、一番私が好きなのが、りんごです。おやつや夜食になるような甘いポタージュは、やっぱりスープとしか言いようがありません。甘酸っぱい映画とともに、ぜひ味わってみてください。
◎映画のスープレシピ:
言い張ることで得る新境地
りんごのポタージュ
バター 10g
砂糖 大さじ1
生クリーム 6~70mL
シナモン 少々
◎つくり方
- 1. りんごは皮をむき薄切りにする。
- 2. 鍋にりんごと砂糖を入れてまぶしつけ、5分ほど置く。バターと水100mLほどを加えて中火にかける。ときどき混ぜながらリンゴがやわらかくなるまで煮る。水をさらに200mLほど足す。
- 3. ブレンダーで滑らかにし、好みのかたさに水で緩める。味をみて、甘さが足りなければ砂糖を足す。
- 4. 生クリームをゆるく泡立てる。スプーンですくって、器に注いだポタージュにかけ、シナモンをふる。
- 本当のモンスターは目に見えない 『怪物』
- 映画の中のひとり飯
- 色めがねの向こう側 『そして、バトンは渡された』
- 自分で自分を笑わない 『アメリ』『花とアリス』
- 自由か孤独か、映画の中のひとり飯 『ティファニーで朝食を』『冬の旅』
- ギャップという魅力 『勝手にふるえてろ』『桐島、部活やめるってよ』
- なんにもしない、をする人の効用 『めがね』『トイレット』
- 私の周りに世界があるのか、世界の中に私がいるのか 『リトル・フォレスト』日本版・韓国版
- はみ出し続ける女たちを応援しよう 『アンという名の少女』『ブリジット・ジョーンズの日記』
- SNSと、無意味なおしゃべりの消失 『何者』『セトウツミ』
- 本能と理性の間に人生はある 『タンポポ』
- 選ばれる人生より選ぶ人生を 『セックス・アンド・ザ・シティ』
- 時間の大海へ泳ぎ出す 『舟を編む』
- 癒しのガールズ・トーク 『海街diary』
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