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ゴシップやSNSでの炎上によって、昨日までそこにいた人が社会的な立場を失うケースをよく目にするようになりました。無名の人々が発する声は、正論も、誹謗や中傷もいっしょくたに飲み込んで巨大化します。ときにその人の過ちの重さより、社会的な制裁の方がはるかに重いのでは…と感じることすらあります。
それと同じように、人の心に潜み、怒りや不安が集合体になってコントロール不能になったモンスターが描かれていたのが、この『怪物』という映画でした。
私は自分で言うのもなんですが、正義感に囚われやすいタイプです。もし安藤サクラ演じる沙織が自分のママ友で「息子の湊が担任の保利先生に暴力をふるわれた。学校に行ったら校長や保利先生はちゃんと説明もしてくれない上、モンスターペアレント扱いされた」なんて相談されたら、一緒に学校に乗り込んでいって、どういうことか説明してください! くらいのことは言いかねません。
しかし一転、保利の視点で描かれる第二幕で、この事件は全く別の様相を見せます。永山瑛太が空気をまとうような演技で不器用な若い青年教師の雰囲気をリアルに演じ、一幕とは違う保利の一面を表現しています。得体のしれない怪物に追い詰められ、むしばまれていく姿も心に迫ります。善人も子どもも含め、誰もが誰かを無意識のうちに傷つけています。
物語がある種のミステリー仕立てになっているため、正義漢気取りで「怪物探し」をしていたけれど、気づくと本当の「怪物」は、紋切り型のストーリーにはまり込んでいた自分の心だった…。振り上げた拳をそっとおろすような気持ちになりました。
どうしたらわかりあえるのか、あるいはわかりあえないのか…大人たちが答えを出せないでいる中、『怪物』の三幕目では、子どもたちにその未来を託しました。教師や親や無神経なクラスメイトたちが作り出す安易な筋書きに対して無言を貫き、友情を隠してきた湊と依里という二人の少年たちは、台風の吹き荒れる物語のラストで閉鎖的な世界からはっきりした意思を持って飛び出していきます。隠れ家である廃線の列車が台風という怪物によって破壊されたのは象徴的でしたが、彼らはそこを無事に抜け出し、トンネルの奥から差し込む光に向かって走っていきます。
ひとたび怪物が大きくなってしまえばもう私たちにできることはなく、台風のときと同じようにやりすごすしかありません。正義を振りかざす気持ちよさが怪物の餌になりえると自覚しながら、目の前の事象をまっすぐ見つめ続けること。それが怪物を大きくしない方法ではないか。そう思いながらも、まだそれが正しいとも正しくないとも言い切れない自分がここにいます。
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この映画では対話の限界や難しさが描かれていますが、一方で料理はとても対話的だなと思います。食材の肉や魚や野菜には同じものはひとつとしてありません。焼き加減や煮加減の見極めも、めやすはありつつも、本当のところは鍋やフライパンの中に起こる小さな変化を観察するしかありません。ここが料理の難しさでもあるのですが、五感を働かせながら日々料理をしていると小さな違いを感じ取る能力は磨かれていくと思います。
今回はオニオンスープを作ってみましょう。たまねぎを炒めていると、最初はちょっとツンとするような刺激臭があるのですが、やがてくったりとして、色も変わり、甘い香りがしてきます。少しずつ変化を感じとりながら作ってみましょう。ここでOKという見極めも、自分の感覚でやってみるといいと思います。
先入観なく、食材の声を聞く力を身につけてみてください。
◎映画のスープレシピ:
対話しながら作りたい
オニオンスープ
バター 30g(またはオリーブオイル大さじ3)
塩 小さじ2/3
黒胡椒 少々
(好みで)粉チーズや溶けるチーズ
◎つくり方
- 1. たまねぎは薄切りにする。
- 2. 厚手の鍋にバターを入れて中火で熱し、たまねぎと塩を入れ、全体を混ぜる。
しんなりしてきたら鍋底全体にたまねぎを広げる。底が焦げ始めたら水を大さじ1ほど足して焦げをへらなどでこそげとって水分を飛ばす。これを繰り返しながら、茶色に色づくまでひたすら炒める。水分が少なくなってくると焦げやすいので、よく観察を。
- 3. 水600mL前後を加えてのばし、塩(分量外)で味を調節し、黒胡椒をたっぷりふる。器によそって、好みで粉チーズをふる。 (トーストした薄切りバゲットと溶けるチーズをのせてオーブントースターで10分ほど焼くと、オニオングラタンスープになります!)
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