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恥ずかしいのであまりおおっぴらにはしていないのですが、実は2年前からお茶を習っています。料理の仕事をするのにお茶の知識や所作を知りたいと思って始めました。
決まりが多くて、何だかめんどうが多そう……に見えていた茶道の所作は、非常に合理的で無駄がないものだ、ということに気づきました。頭から手先まですべてが、最短距離で美しく、しかも無理なく楽にできるようになっているのです。「型」というものの力とは、自分の動きを縛るものではなく、むしろそこに頼ることで余計な力が抜けるものなのだなーと実感しました。
そんな視点で『かもめ食堂』を観ると、主人公のサチエ(小林聡美)は、型を持っている人のように感じられます。
サチエは合気道の経験者。合気道の基本動作である膝行(しっこう)をやるシーンが物語の間にときどきはさまります。そんな習慣のせいでしょうか、彼女の動きには無駄がありません。お湯を沸かしてコーヒーを淹れる動作もゆったりと見え、かもめ食堂のおだやかな雰囲気を作り出しています。
身体的な型は、精神的な型にもつながっていくものなのでしょうか。サチエは穏やかな性格で、かもめ食堂にやってくる、かなり個性的な人たちもにこやかに受け入れます。とはいえ、自分の店のやり方を、決して譲ることはありません。おにぎりのメニューもかたくなに変えません。
型とは、やるべきことを無理なく楽に成し遂げるためのもの。そのことが理解できている人にとっては、やることも、逆にやる必要のないことも、はっきりしているのでしょう。
店の手伝いをするミドリ(片桐はいり)は、型を意識できていない人として、サチエと対照的に描かれます。大きな物音をたてながらバタバタ動き、思いつきで行動をしています。型にはまっているから生きづらいのではなく、型がないから生きづらい。そんな風に見えるミドリにむしろ共感を持ってしまいます。
ふと思い出しましたが学生の頃、大学の先生に「有賀さんはお茶を習うといいのでは」と言われたことがありました。きっと先生の目には私がミドリみたいに見えていたんでしょうね。
サチエは毎日コーヒーを淹れます。決まった豆で、決まった手順で。その姿はどことなくお茶を点てる人の所作にも見えます。
「やりたくないことをやらないだけです」サラリと言いながらも、実は自分のやるべきことをまっすぐ見つめ続けている。そんなサチエに憧れつつ、新しいスケジュール帖に、今月のお茶の稽古日を書き込みました。
かもめ食堂のおにぎりも、いうなれば「型」のひとつですね。材料は、ごはんと、塩と、のり。中身は、梅干しと、しゃけと、おかか。丸や俵もあるけれど、やっぱり基本は三角。
そしてスープで型といえば、実はお正月にみなさんが家で召し上がっただろう、お雑煮です。おすましに角餅、白味噌に丸餅、鰤(ぶり)を使う、あずきを使うなど、全国にさまざまなタイプがありますが、各地、各家庭ごとに決まったスタイルで、年によって変わることはありません。
焼き角餅、鶏肉、小松菜にすまし汁のシンプルなお雑煮は、東京雑煮のひとつの型です。これに我が家はへぎ柚子を飾って香りを添えます。
材料も少なく非常に簡単で、お正月が過ぎてから、平日に食べるにもよいものです。
◎映画のスープレシピ:
『型を守るスープ』
(鶏と小松菜の東京雑煮)
小松菜…ゆでたものを40g
柚子皮…そいだものを2枚
角餅…2個
昆布かつおだし…400mL(顆粒だしやだしパックを利用してもよい)
塩…小さじ1/2
薄口醤油…小さじ1
◎つくり方
- 1ゆでた小松菜は4㎝ほどの長さに切る。柚子は皮をそいでおく。鶏肉は小さく切る。
- 2昆布かつおだしを鍋に入れ(※)、鶏肉を入れて中火にかける。沸騰したらあくをとりのぞき、3分ほど煮て鶏のだしをとる。小さじ1/2の塩と、小さじ1の薄口醤油で味をつけ、味を見て塩でととのえる。(すぐ使わない場合は一度火からはずし、餅が焼けたらあたためる)
- 3餅を焼いて器に入れ(テフロンのフライパンで焼くと綺麗に焼けます)、餅の脇に2のだしから鶏肉を置き、小松菜を添え、静かにだしを注ぐ。柚子の皮を飾る。
※昆布かつおだしの作り方
昆布10cm(約5g)を水1Lから弱火で煮て、鍋肌にプツプツ泡が出てきたら、昆布を取り出す。そのまま火にかけて煮立ったら鰹節20gを加えて30秒ほど数え、火を止める。アクをすくい1分ほど待って、こす。
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