そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
映画には登場人物たちの多様な人生が描かれています。その生き方に触れることで、新たな価値観に出会うことってありますよね。映画を通して、自分の生き方や働き方の幅を広げてみませんか?
先日、幼なじみから「お前って、いつも誰かをバカにしていたよな」と言われた。
確かに僕はよく誰かを見下していた。
子どもの頃の僕は、人より運動ができたから少しチヤホヤされ、ちょっとモテた。バレンタインデーにはわりと告白もされたし。それを鵜呑みにして調子に乗ってしまい、まるで自分は週刊少年ジャンプの人気者のような存在だと思い込んでいた。世界は自分を中心にまわっていた。
中・高校ではサッカー部のキャプテンを務めたので、その勘違いは加速。「いつ・誰に見られても・カッコよく」をモットーに、人気者はこうあるべきだとまわりの目を意識しまくっていた。
僕はちょっとした人気を武器に、傲慢になっていった。学校での態度はどんどん横柄になり、自分より運動や勉強ができない人や、気にくわない人を下に見て「本当にダメな奴らだよな」とバカにした。大学でも“カッコいいと思われたい欲”はさらに勢いを増し、アルバイトで稼いだお金は全てファッションに費やした。
大学の同級生たちは着実に大人の価値観を身に付け始め、人に優劣などないと理解しているのに、僕の精神年齢は子どものまま。相変わらず自分本位の考えしかできずに、誰かを見下して過ごしていた。
しかし、自分中心に生きてきた僕の人生に少しずつ不穏な空気が立ち込め始める。
大学のゼミの先生に「君は服が好きそうだらか、ファッション関係の仕事が向いているんじゃない?」と提案され、それを真に受けて卒業後はアパレル業界の営業職に飛び込んだ。しかし、そもそも服は「自分をよく見せようとするため」に買っていたのであって、目の前にある僕と関係のない服には全く興味が持てなかった。同僚たちの仕事に対する前のめりな姿勢には全く意味が感じられず、とにかく指示されたことだけをこなす日々。
その無気力な行動から僕はミスを連発するようになった。見かねた上司から「こんなこともできないの?」「もっと真剣にやれ!」「やる気あるのか?」と怒られることが多くなっていった。
今まで、キラキラした人気者だと思って生きてきた自分が、いつの間にか、仕事ができない、役立たずの、周りから「情けない」と思われる人間になっていた。そんな姿になっているなんてまわりに絶対知られたくないと悩んだ僕は、誰もがうらやむ、都会の若者になるための方法をあれこれ考え、自らに施していったほどだった。
インターネットや雑誌で得た情報を総動員して週末は都内へと繰り出し、「リア充」を必死にアピールするための写真を撮りまくり、撮りためた写真は洗練されたライフスタイル雑誌『KINFOLK』のようなオシャレ感を出すためにアプリで加工を施し、せっせとSNSで投稿。「いいね!」をもらえることが、情けない自分を肯定してくれるための精神安定剤になっていた。
しかし、やればやるほど、現実と虚構でバランスが取れなくなった僕は、いつしか公私ともに失敗が続くようになり、何をやってもうまくいかないことへの絶望感から生きる意味が全くわからなくなっていた。僕の人生は完全に終わってしまった。
「お前って、いつも誰かをバカにしていたよな」
幼なじみの言葉から一気に蘇った誰にも触れられたくない僕の物語。「いや、その、あの時は…」なんて、もごもごと言い訳をしている僕に蘇ったのは、そんな僕の物語にも続きがあるんだと思わせてくれた映画のワンシーンだった。
北野武監督の映画『キッズ・リターン』(1996年)でマサル(金子賢)にシンジ(安藤政信)が、高校の校庭で自転車を二人乗りしながら「俺たち、もう終わっちゃったのかな」とつぶやく、あのシーン。
授業もろくに出ないで悪ふざけやカツアゲを繰り返し、世間をバカにしながら毎日を自由に暮らしていた高校生のマサルとシンジ。マサルはボクシングに夢中になるが途中で挫折。やくざの道に進むも無鉄砲な性格があだとなり兄貴分からヒドい制裁を受けて無職になってしまう。一方のシンジは、マサルに誘われ始めたボクシングで将来を期待されていたものの、先輩の悪知恵にそそのかされて試合に惨敗、引退をしてしまう。
自分の好きなように人生を歩み、世間をバカにしていたはずのふたりは、いつしか誰からも必要のない人間とされ、世間からバカにされる存在になっていた。マサルとシンジは、まさに僕だと思った。
でも、マサルはどうしようもなく先も見えないはずなのに、「俺たち、もう終わっちゃったのかな」とつぶやくシンジに、笑いながらこう言った。
「バカ野郎。まだ、始まっちゃいねえよ」
胸が熱くなり、涙がこぼれた。どれだけ絶望しても、どんなに苦しく惨めな過去があったとしても、諦めなければ人生は何度でもやり直せる。シンジの言葉を聞いて少し希望が持てた。
僕にも新しい人生が描けるのなら…。そんなことを想像しながら、できれば誰の目も気にすることなく、自分の信じた道を突き進むマサルみたいな意思の強さがほしいなと思った。あまりにも無鉄砲過ぎる性格以外は。
それから僕は、もう誰かの目を気にして生きることはやめようと決め、どうにか自分を変えるために、少しずつ情けない部分をさらけ出していった。
今、僕は等身大の自分で人生を歩んでいる。昔を思い出すと、ちょっと切なくなるけど。「お前って、いつも誰かをバカにしていたよな」と言った幼なじみに、隠し続けた僕の暗黒時代を打ち明けると、少し驚いた様子を見せながらも、「まあ、これからっしょ」と笑っていた。僕たちふたりは、マサルとシンジのように笑い合っていた。
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