そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
あなたが今映画を一緒に観たい、届けたい人は誰ですか?
「あなたにとって大事な人は誰ですか?」と聞かれて思い浮かぶ顔の中に、ひときわ笑顔の男の子がいます。その笑顔を思い出す時、頭に浮かぶ映画が『君を忘れない』(1995)です。
私は中学生の時、ある病気を患い、長い間入院生活を送っていました。そこは難病を患う子供が全国から集まる大学病院の小児病棟で、入院していた多くは、私よりもずっと年下の子ばかりでした。今までの生活が一変し、辛い治療に先の見えない闘病生活。その現実を中々受け止めきれなかった私は、毎日のように泣いていました。
そんなある日、私の元に一人の男の子がやってきてこう言ったのです。
「おねえちゃん、笑って!」
まるでひまわりがパッと咲いたように笑うG君は、小児がんを患って入院していた4歳の男の子でした。その笑顔を見て、「こんなに小さな子が病気と前向きに闘っているのに、私はいつまでメソメソしているんだ」と、自分を恥ずかしく思ったのと同時に、身体中に力が湧いてきたように感じたのです。G君の笑顔は、ふさぎ込んでいた私を暗闇から引っ張り出してくれました。
季節が夏に向かう頃、G君が無菌室に入り、抗がん剤を使った治療を始めることになりました。無菌室に入れば、それまでのようにお母さんと会えなくなってしまいます。まだ4歳のG君にとって、治療よりも辛いことかもしれません。無菌室に移る前日、これまで気丈に振る舞っていたG君のお母さんが、廊下で声を殺して泣いている姿を見かけました。その様子に気づいたG君が、お母さんに近寄り「ママ、笑って」とにっこりと微笑みかけていた姿が、私は今でも忘れられません。
本当はG君だって、怖くて不安で、泣きたかったと思います。でも、彼はまず「自分にとって大事な人」であるお母さんを笑顔にしたかったのです。私に「まずは自分が笑顔になって、誰かを元気づけること」の強さを教えてくれたのが、G君でした。その“笑顔の力”を思い出す映画が、『君を忘れない』です。
『君を忘れない』は、特攻隊として招集された若者たちの青春を描いた作品で、上映当時、母に連れられて劇場で観ました。幼い私は、まだ戦争というものがどんなものかも分かっておらず、物語前半で、機銃掃射の攻撃を受けるシーンがとても怖く「この後もこういうシーンが続くのかな?」と緊張していました。でも、最後まで観続けることができたのは、松村邦洋さん演じる特別攻撃隊(特攻)・高松の笑顔があったからです。高松は高所恐怖症で、水を飲んでも太ってしまう体質の持ち主ですが、いつも笑顔を絶やさず、その愛嬌でムードメーカーのような存在です。
出撃の前日、隊員たちは酒を酌み交わし最後の時間を過ごしている中、高松が「俺はみんなのこと忘れないですから。ずっと覚えてますから」と語ります。この時の高松の笑顔が、私にはあの時のG君と同じように感じたのです。なぜなら、その笑顔は、辛い時こそ自らが笑い、大事な人を守るための笑顔だったからです。
戦争と病気。置かれている状況や戦うものは違うけれど、恐怖や苦しさの中で、一人の笑顔がどれだけ周りの人たちの救いと力になったことか。自分が辛いときに、誰かに笑顔を見せるというのは中々できないことです。でも、自分が笑顔を見せれば周りの人たちも笑顔になることを、G君と『君を忘れない』の高松が教えてくれました。
G君の笑顔は今でも私にとってお守りであり、自分の病に負けない気持ちを思い起こしてくれた「大事な人」です。 G君の笑顔に元気をもらった人は私だけではありません。同じ病棟に入院している他の子やその家族、看護師さんやお医者さんなど、病棟にいる人たちに笑顔の力をくれました。もし今、成人したG君ともう一度会えることがあるのならば、『君を忘れない』を一緒に観ながら「あの時、笑顔を見せてくれてありがとう。私は今、元気です。」と伝えたいです。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
- 大人になって新しい自分を知る。 だから挑戦はやめられない 『魔女の宅急便』
- ティーンエイジャーだった「あの頃」を呼び覚ます、ユーミン『冬の終わり』と映画『つぐみ』
- 振られ方に正解はあるのか!? 憧れの男から学ぶ、「かっこ悪くない」振られ方
- どうしようもない、でも諦めない中年が教えてくれた、情けない自分との別れ方。『俺はまだ本気出してないだけ』
- 母娘の葛藤を通して、あの頃を生き直させてくれた映画『レディ・バード』