
そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
当時の私は、育児休業から職場復帰したものの、初めての育児と仕事と家事の両立に疲れ果てていました。周囲のママと自分を比べては落ち込み、何もかも中途半端で、何一つうまくこなせない自分に嫌気がさして、とにかく現状から逃げ出したい一心でした。
そんな時、息子と一緒に楽しめる作品を探そうと訪れた動画配信サービスサイトで、目に留まったのが『きっと、うまくいく』です。映画を観る元気すらなかったはずが、そのタイトルに惹かれて観始めました。歌って踊るミュージカルあり、笑いあり、アクションあり、友情、ロマンス、家族愛……と、要素は盛り沢山。長編ながらも物語と登場人物たちの魅力に引き込まれ、爽快なハッピーエンドを迎える、あっという間の170分間でした。

『きっと、うまくいく』に登場する成績優秀な主人公・ランチョーは、探求心旺盛で型破り。そのランチョーの破天荒な姿は、当時の卑屈な私に3つのことを教えてくれたのです。「こころはとても臆病だから麻痺させる必要がある」こと、「成功とは競争に勝つこと(高学歴・高収入・好成績)ではなく、好きなことに熱中したあかつきに得られるものだ」ということ。最後に「今を楽しみ、今を生きる」ことの大切さを。
私は、この映画を観て、どんなに優秀な人でも臆病なこころがあることを知りほっとしました。そして、臆病な部分との付き合い方がわかり、強くなれたように思ったのです。周りと比べることをやめ、あれほど逃げ出したかった「今」にフォーカスした暮らしを心がけ始めると、いつしか気持ちが軽くなっていたことに気が付きました。

そして今、私の目の前には学校再開にむけて準備中の小学生の息子が2人…。
普段からエネルギッシュで活動的な彼らが、以前からそうであったかのように「今」の生活にすっかり順応して楽しんでいます。近所の小川でカナヘビを追い回し、家に帰れば時間が経つのも忘れて生き物科学漫画と図鑑をめくる長男。連れ帰ったカナヘビを室内で手荒に遊ばせる次男。そんな二人に、ついつい母としての私は「学校の課題は終わったの?」「もっと勉強しないと苦労するよ」と言ってしまいます。でも、もしかすると彼らはちゃんと自分の「好き」を知っていて、学ぶ楽しさを学んでいる最中なのかもしれません。

だからこそ、この映画を彼ら自身の感性で受け止めて欲しいなぁと思います。それは、大切なのは競争での勝ち負けじゃないということを、自分自身で感じとって欲しいから。彼らはきっと、この先さまざまな場面で困難に直面するでしょう。そんな中でも「好き」な事への探究心と情熱を燃やし続け、今を生きることを忘れず、友情を大切にできれば、「きっと、うまくいく」。

- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
- 大人になって新しい自分を知る。 だから挑戦はやめられない 『魔女の宅急便』
- ティーンエイジャーだった「あの頃」を呼び覚ます、ユーミン『冬の終わり』と映画『つぐみ』
- 振られ方に正解はあるのか!? 憧れの男から学ぶ、「かっこ悪くない」振られ方
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