そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
新たな挑戦に向かうあなたの心にぴったりの一本が見つかるかもしれませんよ!
新しい挑戦に失敗はつきもの。でも、そのチャレンジが苦労もなくトントン拍子で進んでいくと、ちょっとした挫折から思わぬ底なし沼にはまってしまうこともあります。そんな時、私がいつも心に思い出す映画が『魔女の宅急便』(1989)です。
子どもの頃から運動神経の悪い私は、学校で部活に打ち込むこともなく、これまでずっとスポーツや競技とは無縁の人生を送ってきました。そんな私が3年前から始め、一度も離れることなく今も続けられているのが、弓道です。
「自分の身体を使って何かをする」ことは、私にとっては新しい挑戦でしたが、弓を構えて矢を放つ、というシンプルな動きをひたすら鍛錬していくこの競技に、私はどっぷりとはまってしまったのです。早起きして仕事の前に朝練に行き、休日は家族に頼んで講習会や試合にでかけ、寝ても覚めても頭の中は弓道のことばかり! 弓を引きながら身体をゆっくり開いていく感覚が気持ちよく、高確率で的に的中していたことも、のめり込んだ理由のひとつでした。
ところが、弓道を始めて2年目に受けた弐段の審査で、普段は一度もしたことのないミスを犯し、私は同期の中でただ一人不合格に…。目の前は真っ暗、励ましてくれるみんなの声もはるか遠くに聞こえ、会場の明治神宮からどうやって帰宅したのか、ショックのあまり覚えていないほどでした。
何をしていても気分は晴れず、沈んだ気分のまま翌週弓道場に向かうと、これまで面白いほど的中していた矢が、全く当たらなくなっていました。弓と矢を持つ自分の手が他人の手のように感じられ、そんな状態がしばらく続くと、家に置いている道具を見るのも嫌になってしまいました。
そんな時に思い出したのが、子どもの頃から何度も観ていた映画『魔女の宅急便』で、キキが森に住む絵描きの少女・ウルスラに会いに行く場面です。魔法が使えなくなり、自信をなくしたキキの横顔をスケッチしながら「私もよく描けなくなるよ」と言うウルスラ。「そういう時は、描いて描いて描きまくる!それでもダメなら、散歩したり、景色を見たり、昼寝したり、何もしない。そのうち、急に描きたくなるんだよ」。キキが空を飛べなくなり、子どもの頃は退屈に感じていたこの場面が、すっと頭に浮かんできたのです。
映画ではその後、親友のピンチを救うことで、「自分なりの空を飛ぶ理由」を見つけたキキがスランプを脱出しますが、私もスランプになって初めて、自分なりの弓道と向き合うことができた気がしました。静かな弓道場で、自分の矢が的を射抜く爽快な音は、運動音痴がコンプレックスだった私にとっては本当に特別でした。でも、的中率や審査などの結果にこだわりすぎて、最初に感じた気持ちを忘れていたのです。自分の身体を使うことを楽しむ。そうして続けていくと、自然と的にも当たるようになっていきました。
コンプレックスを突破して調子に乗ったり、挫折して年甲斐もなく落ち込んだり。大人になっても、自分も知らない自分の姿はまだまだたくさんある。だから挑戦はやめられないのです。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
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