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現在は大阪で暮らしているものの、東京で生まれた私。人生の大半を東京で過ごしていたわけですが、ほとんど行ったことがない場所もたくさんあります(東京って広いですよね!)。ミニシアターをきっかけに、まだ見ぬ東京を探しに行くのはいかがでしょう?
どんな人でも映画を楽しむことができる
映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」
朝早くホテルを出て子どもを義実家に預け、向かうはJR山手線・京浜東北線の田端駅。開放的かつ現代的な雰囲気の北口を抜けて線路の上を渡った先にあるのが、今回の目的地「シネマ・チュプキ・タバタ」がある田端駅下仲通り商興会(商店街)です。
昔ながらの東京の風情を残したのどかな空気を感じつつ歩いていくと、右側にお目当ての「シネマ・チュプキ・タバタ」が見えてきます。
「バリアフリー映画鑑賞推進団体City Lights」というボランティア団体が、2016年に募金を集めてオープンした「シネマ・チュプキ・タバタ」は、座席数20のとても規模の小さい映画館です。センスの良いラインナップで着実にファンを増やしている注目のミニシアターなのですが、最も特徴的なのはここが誰にでも開かれたユニバーサルシアターだという点でしょう。耳や目が不自由な方をはじめ、子育て中の方や車椅子利用者などにも広く利用できるように設計されています。
また、シアターの手前には親子鑑賞室も完備。赤ちゃんがぐずって周囲に迷惑をかけてしまうのでは? という不安を抱くことなく、個室の中から映画を楽しむことができます。もちろん親子専用というわけではなく、暗闇の中で大勢と映画を観ることが苦手な方など、どなたでも使用することが可能です。
さらに、すべての上映作品にはバリアフリー字幕(※1)がつき、イヤフォンで音声ガイド(※2)を聴くことができます(全座席で利用可能、イヤフォン無料貸出あり)。また、こうしたバリアフリー設計と同時に、音響にもかなりこだわって作られているのだそうです。
ロビーもシアター内も手作り感がある優しい内装が印象的なのですが、映画館設立の際に集まった約1880万円を支援した方々の名前が書かれた「チュプキの樹」の壁画は特に見ごたえたっぷり。一歩足を踏み入れただけで、この映画館がどれほど多くの人々の想いが結実したものなのかが伝わってきます。
さて、それではいよいよシアター内へと進みます。今回鑑賞したのは『こころの通訳者たち What a Wonderful World』というドキュメンタリー作品。舞台手話通訳に挑戦した3人の手話通訳者たちを追った映像に、プロデューサーである「シネマ・チュプキ・タバタ」代表の平塚千穂子さんが中心となって「なんとか音声ガイドをつけよう」と皆で試行錯誤する様子が記録されています。
芝居の言葉を耳の聞こえない人に伝えるために舞台手話通訳者が手話で表現し、その手話表現を今度は目の見えない人のためにまた言葉にするという途方もないチャレンジ。わからないものを理解したいと願う強い意志と、そのために全員が真剣に交わしていく真摯な対話。豊かな対話がいかに実りある議論を生み出していくのかを目の当たりにして、私はまるで宇宙が3倍くらいに広がった感覚を覚えました。これほど「対話」をしっかりと描いた映画は他にはないのではないかと思います。
そして、この日は出演者たちによる舞台挨拶も! ラッキーです! たった今スクリーンの中で豊かな対話を繰り広げていた方々を目の前にして、心が沸き立ちました。お客さんからも素晴らしい感想が次々と飛び出し、これまた豊かな時間を過ごすことができました。
舞台挨拶が終わった後も、映画館の外ではお客さんと平塚プロデューサー、出演者の方々との和気あいあいとした交流が続いていました。私もしっかりパンフレットに平塚プロデューサーのサインをいただいてきましたよ。
こちらのパンフレットですが(超充実の内容です)、表紙にこうして点字のエンボス加工が施されています。平塚プロデューサーは「こころ」と打ったつもりだったものの、入稿ギリギリになんとか間に合わせて出来上がったものを白井崇陽さんに触って読んでもらったところ、「これ、【こころ】じゃなくて【たたり】って書いてありますよ」と言われて仰天! 点字を印刷する際は、凹凸と読む方向を逆にして入稿しないといけなかったものを、うっかりそのまま入稿してしまっていたそうです。こういったエピソードのすべてに気づきがあり、実に有意義なミニシアター体験になりました。
(※【たたり】になっているのは初版のみで、それ以降は【こころ】と正しく記載されているそうです。)
個性あふれるお店が並ぶ商店街へ
さて! 良い映画をガッツリ観て、いろいろな方のお話を聞いたらいい感じにお腹が空いてきました。早速ランチへと繰り出しましょう。「シネマ・チュプキ・タバタ」のすぐそばにあるカレー屋さん「マヒマ Mahima」に足を運びました。
カレーの良い香りが漂う異国情緒あふれる店内には、小さい子ども2人と両親というファミリーが1組だけ。しかし、ランチセット(750円)を注文して少ししたら次々にお客さんが入ってきて、店内はあっという間に満席になりました。地元の人々に愛されているのがわかります。
ジャジャーン! こんなに大きいナンと、カレー+サラダ+ドリンクで750円とは……お得です。カレーは豆・野菜・キーマ・チキンから選べて、辛さも指定できます(私は野菜カレー&辛さ普通をチョイス)。ドリンクはラッシーにしました。元々ナンが大好物なので、あっという間に完食! しっかりとスパイスが効いていてとても美味しいカレーでした。
続いて、『こころの通訳者たちWhat a Wonderful World』にも登場した「シネマ・チュプキ・タバタ」真向いのお店「長峰製茶 東京田端店」さんへ。実はここの名物だというソフトクリームが目当てだったのですが、カレー&ナンでお腹が膨れすぎてこれ以上は入らないという状態に。でも、せっかくなので義実家へのプレゼントに日本茶を購入しようとお店を訪れてみました。
店内には様々な種類のお茶がたくさん置いてありました。もちろんソフトクリームも!
こちらの「ムセ抹茶ソフトクリーム」をぜひともいただきたかったのですが、無念……あと10歳若ければいけたのに(涙)。不甲斐ない自分の胃袋に落胆しつつ、映画にも登場されていた店主の高津和彰さんと少しお話をすることができました。
40年以上続いているというこのお店。かつては人通りが多かった商店街も、街の開発で人々の動線が変わったことで人通りが一気に減って、一時期はかなり寂しくなってしまったのだそう。そんなときに「シネマ・チュプキ・タバタ」ができたことで、外からまたお客さんが訪れるようになってとても嬉しいとおっしゃっていました。商店街全体でミニシアターを見守り盛り上げている様子が伝わってきて、私まで幸せな気分に。次回は絶対に「ムセ抹茶ソフトクリーム」を食べます!
通りかかった人の多くはソフトクリームが気になって立ち止まっていました。食べたかった……(未練)。
さて、そろそろ息子を迎えに行かなければ。日本で唯一のユニバーサルシアターである「シネマ・チュプキ・タバタ」は優しい活気に満ちていました。そして、その優しい空気が商店街全体に広がっていっている様子も垣間見ることができ、映画館が持つ可能性に大きな希望を見出した1日となりました。
「シネマ・チュプキ・タバタ」は、間違いなくわざわざ訪れる価値があるミニシアターです(私が観た回には北海道からやってきたお客さんもいました)。ラインナップの素晴らしさと、隅々まできめ細やかに設計された工夫に驚くこと間違いなし。なお、行かれる際は20席しかないので事前にネット予約をおすすめします! 田端駅下仲通り商興会の個性豊かなお店も一緒に楽しんでみてくださいね。
今回のさんぽコース
※1 劇中の「音」が伝える情報も文字にして表示する字幕。また、台詞は誰が喋っているのか分かるように、台詞と話者名を表示する。外国映画の日本語字幕とは異なる。
※2 目の不自由な人でも映画鑑賞を楽しむための、言葉による映像の解説。
PINTSCOPEでは、これからも日本各地や世界にあるミニシアターを紹介していきます!
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