目次
インドの南部に浮かぶ小さな島国・スリランカ。
私は約20日間、ローカルバスに揺られることを目的とした一人旅をしにこの国へやってきました。
私はいつも一人旅を通して、その国の文化や現地の人々の暮らしをリアルに体感できる瞬間が一番の楽しみです。庶民にとっての娯楽である「映画」をから、その国ならではの人々の姿が見えてくることも多くあります。今回は、スリランカの一番の大都市・コロンボで映画を観てみようと決めました。果たしてどんな作品や人と出会えるのでしょうかーー。
街中にひっそりと建つミニシアター
「Ritz Cinema」で映画鑑賞
まずは、情報収集から。現地の人に「どこかいい映画館を知らないですか?」と尋ねると、皆ショッピングモール内にある綺麗な映画館をおすすめしてくれます。でも、今回行ってみたいのは地元の人がふらっと訪れるようなミニシアター。街中の建物と並び、ひっそりと続いてきた個人経営のミニシアターでこそ、スリランカらしい光景を見られるはずです。
しかしミニシアターとなると、ネット上にはあまり参考になる口コミや情報がないので、当然上映作品のチェックや予約もできません。スリランカでミニシアターを訪れたいと思ったら、とりあえず現地に行くのが一番良さそうです。
バックパッカー宿のスタッフさんに「あの通りにミニシアター的なものがあった気がする」と教えてもらい、今回訪れたのは「Ritz Cinema」というミニシアター。
ここは、コロンボのCity fort駅からトゥクトゥクを約10分ほど走らせた大道り沿いの、少し奥まった場所にあるミニシアターです。映画の大きなポスターが入り口上に掲げられていますが、その色合いが街並みに溶け込んでいるので、旅行者はここが映画館と気づかず通り過ぎているかもしれません。
ここ「Ritz Cinema」の客席は全部で120席ほどあるとのこと。客席には若干の段差があるので、どこの席からでもスクリーンが見やすいようになっています。スクリーンは日本のミニシアターと同じくらいの十分な大きさがあります。平日ということもあってか、同じ回にいたのはおじさん1人と、BOX席に座る若いカップルのみでした。
映画のチケットは普通の席が500Rs(約250円)、BOX席で一人700Rs(約350円)と、日本人にとっては破格の値段です。
今回観た映画は、2023年に公開された『VILLAIN』というアクション映画。
言語はスリランカの公用語のひとつであるシンハラ語(もうひとつはタミル語)の作品ですが、画面下には常に英語の字幕が表示されていたので、私も話を理解しながら観ることができました。こんなんなんぼあっても良いですからね、有難いものです。スリランカには、シンハラ語を話すシンハラ人(約7割)に加えて、タミル人(約2割)など複数の民族が住んでいることも影響しているのかもしれません。
『VILLAIN』は、大臣の息子を誘拐した悪役が、なぜその行動に至ったのかを過去に遡って少しずつ見せていくというストーリー。大臣の息子は権力があるのをいいことに、様々な悪事を働いていたことが分かっていきます。そして悪役は、大臣の息子に愛する妹を凌辱された復讐としてこのような行動を起こした……というわけなのです。
「Every villain is a hero in his own story.(どんな悪役も彼自身の物語の中ではヒーローである)」という映画のキャッチコピーに象徴されるように、悪役目線から政治的汚職や権力への抵抗を描いているのが見どころです。
スリランカでは、2022年以来外貨不足によって経済危機が発生し、政治に対する国民の不満が増している状態。実際、今回の旅で出会った多くの現地の人からも「税金が高くなって生活が苦しい」「経済状況が悪くなった」といった話を聞きました。映画『VILLAIN』からも、そんな国や政治に対する国民の抗議心が伺えます。
映画の最後には激しい乱闘を繰り広げた彼ら。悪役が「社会的に制裁してやるから裁判所へ行こう(意訳)」と大臣に告げるシーンで終わりました。
映画はなぜか、大臣とその手下がYouTuberをリンチしているシーンから始まるのが、今まで見たことがない唐突かつ現代を反映した入りだったので私的面白いポイントでした。また、スリランカは人口の大部分を占めるシンハラ人は、スリランカの先住民とインドのアーリア人が混合した民族。インド出身の先祖が多いかつインド映画の上映も多いスリランカらしく、インド映画の渓流をばっちり継いでいるようで、途中には歌&ダンスシーンも楽しむことができます。
また直接的な性的暴行のシーンこそありませんが、女性が痛めつけられるような場面も多々あり、100%気持ちのいい映画ではないような気も…….。しかし、スリランカでの「理想とする男性・女性像」や今の政治に対する考えが垣間見えて、非常に興味深い体験でした。
(さて、果たして後ろのBOX席に座っていたカップルは、この作品を観ながら心置きなくイチャつくことはできたのでしょうか。少し気になるところです)
映画を観た後は、公園とカレーでのんびり時間
暗いシアターを出ると、日が燦々。思わず目を細めてしまうほどの見事な青空です。
トゥクトゥクに揺られ賑やかな街並みに気を取られていると、映画の余韻に浸る暇もないまま「ヴィハーラ・マハー・デーウィ公園(旧クィーン・ビクトリア公園)」に到着。コロンボで最も古い歴史を持つこの公園では、黄金に輝くブッダ像がお出迎えしてくれます。
スリランカは熱帯性モンスーン気候に属するため、1年を通して暖かく、1月の平均気温も27度ほどあるのが特徴。街を歩いているとじっとりと汗をかくのが常ですが、この公園には、涼しい風が吹き抜けています。
自然がいっぱいの穏やかな雰囲気です。金曜の昼時でしたが、公園の中にはのんびりと時を過ごす親子や友人グループ、カップルなどの姿が。一人で運動をしたり、ベンチに座って何か考え事をしている人も多く見られました。
体長1mほどのオオトカゲもナチュラルに散歩しています。他にも、馬の集団がのんびり草を食べていたりと、なんとも野生的で開放的な雰囲気です。
1時間ほど散歩をしていたらお腹が空いてきたので、公園から歩いて10分ほどの場所にある地元のカレー屋さん「Andreya」へやってきました。
こちらは銀行街の裏道にあるローカルなお店。この時間のお客さんは私一人だけです。オーダーを迷っていると、店主のおじさんが気前よく「良い感じのセットを作ってあげるよ」と言ってくれました。
そして出してくれたのはカレーセット400Rs(約200円)。ちなみに水は1本100Rs(約50円)。
スリランカの食事の定番はやっぱりスパイスが効いたカレーです。地元の人の中には、3食カレーを食べるという人も。スプーンではなく右手を使って、色々な種類のカレーをかき混ぜて食べるスタイルです。出してくれたカレーは、様々な香辛料を使った3種類のカレー(レンズ豆・野菜・チキン)と大根のような野菜の漬け物、そしてロティ(小麦粉を伸ばして焼いたもの)のセット。
店にやってきて気づいたのですが、昨日の夕方から何も食べていなかったので、お腹がぺこぺこでした。細長いインディカ米は癖のない味で、スパイスの優しい味と共にスルスル喉を通っていきます。「カレーは飲み物」とはまさにこんな感覚なのかもしれない……と感動しながら無心になってカレーを平らげました。
お昼ご飯の後は、コロンボを去り次の街へ向かいます。
旅先では時差や日が落ちる時間の違いから、時間感覚が分からなくなりますが、そこでさらに映画を観て一度違う世界に行くと、今はいつなのか、自分がどこにいるのか……ふと分からなくなる感覚になります。
スリランカの中で1番の活気を誇る、コロンボの街。喧騒溢れる道を野犬と人間が忙しなく行き交う光景、そしてどこからか香ってくる食べ物や排ガスの匂いーー。忙しなく目の前を通り過ぎる人々や車を必死に避けて歩いていると、時間感覚と引き換えに、自分の身体感覚が鋭く研ぎ澄まされていく感じがあります。
何とかバスターミナルに到着し、地元の人でぎゅうぎゅうに賑わったバスに乗ってコロンボを去ると、映画の記憶も街と共に遠ざかっていくようでした。
※記事内の金額表示は、2024年1月時点のレートで換算しています。
今回のさんぽコース
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