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河野知美「揺れる泪、闘う乳房 〜Pはつらいよ映画日記〜」vol.4

2023年2月
手術日が決定。『水いらずの星』目下制作中。

Sponsored by 映画『水いらずの星』
揺れる泪、闘う乳房 〜Pはつらいよ映画日記〜
俳優は、プロデューサーは、どんな日常生活を送り、どんな思いで作品の劇場公開までを過ごすのか。そして、もしもその間に、大病を宣告されたとしたら——。
あるときは、唯一無二のルックスと感性を武器に活躍する俳優。またあるときは、悩みつつも前に進む自主映画のプロデューサー。二つの顔を持ち、日々ひた走る河野知美さん。
2023年初冬、河野さんが主演・プロデュースを務める新作映画『水いらずの星』が公開されます。越川道夫監督、松田正隆原作、梅田誠弘W主演の本作。この連載では、その撮影から公開に至るまでの約1年間の日記を、河野さんが綴ります。
第4回は2023年2月の日記です。
俳優・映画プロデューサー
河野知美
Tomomi Kono
映画『父の愛人』(13/迫田公介監督)で、アメリカのビバリーフィルムフェスティバル2012ベストアクトレス賞受賞。その他のおもな出演作に、映画では日仏共同制作の『サベージ・ナイト』(15/クリストフ・サニャ監督)や、『霊的ボリシェヴィキ』(18/高橋洋監督)、『真・事故物件パート2/全滅』(22/佐々木勝巳監督)、ドラマではNHK大河ドラマ『西郷どん』(18)、Netflixオリジナルシリーズ『呪怨:呪いの家』(20/三宅唱監督)、HBO Max制作のテレビシリーズ『TOKYO VICE』(22/マイケル・マン監督ほか)など多数。また、主演映画『truth~姦しき弔いの果て~』(22/堤幸彦監督)ではプロデューサーデビューも果たし、『ザ・ミソジニー』でもプロデュース・出演を兼任。2023年初冬、梅田誠弘とのW主演作であり、プロデューサーとしての3作目でもある映画『水いらずの星』(越川道夫監督)が公開予定。|ヘアメイク:西村桜子
河野知美「揺れる泪、闘う乳房 〜Pはつらいよ映画日記〜」vol.4

2月1日

午前中から大学病院へ。
一気に現実に引き戻される。

でも、やっと落ちついて手術日を決定できそうだ。ご尽力いただいた皆様に心から感謝。

肌もボロボロでなかなか、鏡を見る勇気なし。

またまた参ったなぁ。なんて思いながら、病院に行っている間もスタッフの皆は撤収作業、機材返却まで、まだ稼働している。

プロデューサーって無力。
いつも思う。私がプロデューサーだけに徹していればみんなの力になれるのに。 俳優をやっているからこそ気を遣わせる部分がある。
それに、病気でなければこの時間もみんなでいられるのに。と思ってしまう。

なかなか。なかなか。

仮眠をとったあと、明日のオーディションで必要なものを借りに、廣田朋菜氏と合流。
映画論議に花を咲かせる。

こんな言い方するとあれだけど、私は男っぽいので男の人と呑んでいたほうが、すごく気楽なタイプで、女友達があまりいない。

そんな中で廣田氏とは話が合う。
出会って間もないけど、同じ目線で話が出来る。最高にいい女。

と、そこに撮影の中瀬氏から連絡。またまた合流。

中瀬慧というカメラマンとは長い付き合いになる。10年以上の付き合いだ。
『ザ・ミソジニー』でも一緒に仕事をさせてもらった。私は映画製作において彼をものすごく信頼している。彼なしに映画が作れないくらい。現場での耳の痛い話も、嬉しい話も全てを語り明かした。

その後は、廣田氏行きつけの下北沢のバーへ移動。
脚本家の金子茂樹氏と遭遇。

5時まで飲み明かした。

自分の体力、まだまだあるな。と実感。
とはいえ早く寝ます。

写真:河野知美

2月3日

用事があったので、今日も廣田氏と合流。

先日、廣田氏が涙を流しながら伝えてくれた言葉がある。

久しぶりに友達って言える人が出来たよ。と。

泣き虫の私だけど泣かなかった。
そのときは廣田氏が泣いていたからかな。

その後、近くにいたスタイリストの藤崎コウイチさんも合流。
私と廣田氏がまだ出会って2ヶ月ということに、藤崎さんは目が飛び出そうな顔をしていた。
いや、飛び出ていた。

友達って言葉がうまく掴めなかった。
でも、恥ずかしいほど純粋に私の脳から爪の先まで暖かくなった。

生きてきた道は全く別だけど、ここで交差する為に歩んで来たのかね。

まだまだこれからだけど。
私の友達になってくれてありがとう。って思ってる。

2月4日

自分よ、お誕生日おめでとう。
42年この身体で生きてきてくれてありがとう。

小さい頃はアレルギーがひどくてほとんどのものが食べられなかった。
ちょっとしたことで鼻水が止まらなくなって、いつも鼻水を垂らしているような子だった。
でも骨はぶっとくて、おっちょこちょいだけど一度も骨折したことはなかった。
来年のこの日を迎えられたとしても、その生まれながらの身体の一部とはさようならしているのだな。なんて考えていた。

誕生日らしいことも全く考えてなくて、事務処理を進めるために空けていた。

そんなとき、『水いらずの星』スチールの上澤さんから連絡。
やりたいことをやるぞと言ってくれた。

私はスーパー銭湯に行きたい!と答えた。

でもどこにいけばいいのかわからなかったので、銭湯ソムリエ師匠カトウシンスケ氏に連絡。
期待の3倍以上のソムリエ魂が返ってくる。

さっそくソムリエ一押しの、黒湯温泉があるスパへ。
運動がてら自転車で合流。

たくさん話をした。ゆっくりゆっくり時間をかけた。
サウナに入っては語り、お湯に浸かっては語り、ソフトクリームを食べては語り。
撮影のこと。今後のこと。あの人のこと。この人のこと。

アカスリをするとき、右胸は触らないでくださいと伝えた。
今までと何かが違ってきていることに気づいた。

別れ際、上澤さんが「私はいつでも河野さんと戦っているつもりですからね」と言ってきた。
私は「やめてよ。やめてよ」と背中を向けて言った。

一人の帰り道。よくわからないけどずっと泣きべそをかいていた。

2月4日(番外編)

ところで。
PINTSCOPEの連載で「映画とわたしの人生」というものがある。

せっかく節目を迎えた今日だから、勝手にこのテーマで語ってみようかと思う。

私が初めて「これが映画というものなのか」と認識したのは、『パリ、テキサス』のナスターシャ・キンスキーがアップでスクリーンに映し出されたときだった。ビデオテープが所狭しと並んだ棚が壁中にある、我が家の居間。それらは父のコレクションだった。

たぶん、私は5歳くらいだったと思う。

彼女を初めて見たとき、脳が焼けるような感覚があった。私の脳の全てのブレーカーが一気に弾け落ちて煙が上がったような気がした。
目が離せなくなった。

「お父さん、この人誰?」と尋ねると、父は「映画の人だよ」と答えた。

今振り返ると、正直全く答えになってないけど、そのとき私は、「これが映画の人か」と妙に納得した。

数年後。それが、『パリ、テキサス』という映画のナスターシャ・キンスキーという女優さんだと分かった。

映画の人になれば彼女に会えるのか。それなら映画になりたい。と震えた。

ある日、父の個室にビデオデッキが導入され、居間のテレビは映画を映し出すことがなくなった。私も学校や受験やピアノの練習で、日常的に映画を観ることがなくなった。

また数年がたった。
大人になって、自分より年上の人と映画の話をしてもついていける自分に気づいた。多分、毎晩父と観ていたからだろう。と思った。

それから知らぬ間に演技を始めて、終いには自分が映画の人になっている。

人生ってわからない。

これが、映画とわたしの人生。

『水いらずの星』は『パリ、テキサス』を追いかけている映画である。

2月5日

『ザ・ミソジニー』が日本映画年鑑『Japanese Film 2023』に掲載された。
ありがたいことだ。

日本映画とは何か?自分なりに追求してきて。しかも完全なる自主映画で。なんだか、日本代表の仲間入りをした。。。つもりに勝手になっている。

今日は一日のほとんどを作業についやす。
製作の各所への清算案件処理。
『ザ・ミソジニー』の海外配給のための予告編作成フローの打ち合わせ。
『水いらずの星』の新たな宣伝戦略、海外映画祭エントリースケジュールを確認の上、各所と作業リミットの確認、海外映画祭のエントリー作業、字幕作成依頼などなど。

私は強くなくてはならない。
自分に厳しくなくてはならない。
物事を動かすも止めるも全て私の舵一つだ。

そのときを待ちながら私は進み続けるのだ。

写真:河野知美

2月6日

病気だから。
病気なのに。
病気なんだから。って。

いい加減にしてよ!!

私には今やりたいこと。
今やらなくちゃいけないこと。
たっくさんあるんだよぉぉぉ!!
想いはあっても、誰かの理想通りにばかりは動けないよ!
それでも時間みつけて努力してきたつもりだよ。
身体を大事に。って、身体のために私は自分の人生を犠牲にしなくちゃいけないんですか?
健康な人しか、夢を追いかけたり、映画をつくったり、俳優活動したりしちゃいけないんですか?

自分のことなんだから仕方ないって?
私だってなりたくてなったわけじゃないよ。

私のために。両親のために。周りの人のためにって。

病気なんか! 乳癌なんか! 悔しいよ。悔しくて仕方がないよ。

尽力は本当に感謝してる。
でも、私にも譲れないものがある。
どんな状況でも譲りたくないものがある。

心の毛細血管が噴き出した。

健康なら。健康なら。健康なら。

グッと歯を食い縛る。

わはは。そうそうこれが私の本音。

うえーん。って久しぶりに泣いていたら、
愛猫ルナが大丈夫?ってすりすりしてくる。

うん。うん。大丈夫だよって、ギューっと抱きしめる。

ありがとう。

ルナを抱きしめると優しい声になれる。
猫って本当に、最強だ。

スクッと立ち上がって、よし、準備すっぞ。とばかりにお風呂に飛び込み浸かる。

今日はトークイベントに呼んでいただいた。
映画の話をしているときは楽しい。

『水いらずの星』のポストカードも沢山渡すことが出来た。二人くらい、本作の共演者である梅田くんのお知り合いだった。

私の知らない梅田くんがまだまだいるのだなぁ。と思ったりして、『水いらずの星』の梅田くんを見てよ! 最高なんだから! ってまた心で呟きながら相槌を打つ。

これも私の本音。
本音が沢山あることに気づく。
私が沢山いることにまた気づく。

河野知美「揺れる泪、闘う乳房 〜Pはつらいよ映画日記〜」vol.4

2月8日

怒涛の決算処理。
朝の8時から初めて、現在20時。
ようやく全てが出そろった!!

起業して初めての決算期を迎える。
それまでずっと秘書の仕事をしていたので、代表取締役になることはドキドキだったけど、ちゃんと売上高も出せてちょっとほっとしている。
あとは税理士の先生にデータをお送りするだけだ。

俳優やりながら秘書をやっていた私。
10年くらいかな。派遣社員でしたが、秘書の仕事は大好きだった。上司の方が一番に何を求めているのかを察知して動くというスキルはたぶん、プロデューサーになってもすごく役立っている気がする。
そのおかげで、家のローンも組めたし、本当に自分よ、よくがんばったと自分で褒めようと思う。

そうそう、越川道夫監督特集映画祭で一緒に登壇させていただいた中島歩さんと北澤響さんの主演映画『さいはて』が遂に5月6日に公開決定!

自分のことのように嬉しかったのは何故だろう。
響ちゃんにお祝いの杯かわそうの連絡をしてみよう。

しかし、中島歩さん、本当に絵になる。
その点で、この人の右に出る俳優は今なかなかいないのでは。とため息が出てしまう。

越川監督おめでとうございます㊗

『さいはて』
©︎2023 キングレコード

2月10日

梅と雪。不思議な世界。

朝4:30に起きてウォーキングへ。
朝早くから雪が降ると天気予報で言っていた。
今日は家に引き篭もることにした。

久しぶりの友人から電話が来着。

今の自分は何も結果を出せていなくて、停滞していて不安ばかりが募る。河野さんはいつも前に進みつづけていて凄い。と言う。

だから、こう答えた。
私もおんなじだよ。と。
私の周りにいる俳優さんだって、監督さんだってみんな同じ不安を抱えてるはずだよ。と。

みんな何かしらの結果を出したい。と思っているけど、なかなか満足出来るようなことは起こらなくて不安になったりして。
でもね、やりたいことがある、やりたいことが出来ているだけ幸せだと思う。やりたいことが見つからない不安、やりたいことがあっても出来ない事情。抱えている人は沢山いるよ。と。

好きなら色々考えずに、答えなんか出ないと開き直って痛い目見るつもりで飛び込んでみちゃえばいい。と自分自身は思っているよ。と伝えた。

私は人を嫌いたくないが、自分は大切なものを守る為なら嫌われてもいいと思っている。
ペースが合わなくなったら、しばらく離れればいい。自分を貫けばいい。その先でまた他人に何かを与えられる余裕が出来ればいい。

冬になるとルナは私の上で寝る。単純に寒いからだ。でも、春がくると途端に違う場所で寝る。少し失恋した気分になる。

ヒトとヒトもそういうこと。
時期にもよるということ。

そういえば、今日『水いらずの星』の公式Twitterがフォロワーさん500人突破。
公開までに何卒10倍、100倍と目指して頑張りたいものだ。目標は常に高く。

「宇宙中探しても、自分より愛すべき存在は他にいない」

映画『ロマンティックじゃない?』より
写真:河野知美

2月12日

朝から上澤さんと、PINTSCOPEの連載に掲載いただく、通称?「今月の河野さん」の写真を撮影に羽根木公園へ。
梅祭りが開催されていて、日曜日ともあって、公園は家族連れからお年寄りまで たくさんの人で溢れていた。

ちょっと写真を撮れる感じでもないね。と、東松原の駅前にある喫茶店、東亜へ。

レトロな趣がお気に入りの老舗の喫茶店。周辺には新しいカフェがだんだん増えてきたけど、開店早々、ここもお客様で一杯だった。

会って早々、上澤さんが大笑いするような恥ずかしい失態をしてしまって。
でも、笑っている上澤さんをみていたら、恥ずかしい失態もなんのその、私も嬉しくなってしまって、知らないうちにケタケタ笑ってしまっていた。

まだまだ出会って短いけど、私なりに上澤さんの嬉しさも強さも知ってきて。
その反面、悲しみも知って。だから私といるときは笑っててほしいなぁと思って。
それが叶っているから私も嬉しい。

廣田氏と考えているYouTube企画のことを、面白そうですね。と上澤さんが言ってくれたので、さっそく写真撮影をお願いした。また何かを一緒に残せる。嬉しいな。

そんなこんなで、長々お話をしていたら、キングブレンドでは足らずに、ココアを注文。

店員さんに「生クリームは足しますか?」と聞かれたので、「はい! お願いします」と答えたら上澤さんとハモる。また二人でケタケタ笑った。

本当に素敵な女性に囲まれているな。

また近々!(新作映画のスチール確認作業のため)と言ってさよならした。
小さな背中に「いつもありがとう」と言った。

写真:河野知美

夜は、『はだかのゆめ』を見にK2シネマへ。
偶然にも外山文治監督と戸田彬弘監督と遭遇。
ちょうど14日の『茶飲友達』のチケットを買ったばかりだったので、これは引き当てたな。なんて思いつつ、外山監督との最近の遭遇率に驚く。

お二人の作品が現在公開中なので、是非写真で紹介させてください。とお伝えしたら、外山監督曰く、僕らの写真はフリー素材です。とのことで(笑)、お二人とも快諾してくださった。

外山文治監督作『茶飲友達』、戸田彬弘監督『散歩時間』、どちらも日本映画をこれから支えていく要となる監督の作品です。

『水いらずの星』も必ず見ます。とおっしゃってくださったので、必ず見ていただけることを期待して。

写真:河野知美

2月13日

生理が数日前から何もなかったようにやってきた。薬が効いてないのかな。進行はどんな感じなんだろう。不安になる。

癌の進行ペースレベルで言えば、先生曰く一番大人しいレベル。とのことだったけど、健康時となんら変わらないペースでやってくる生理を考えるとホルモン治療はあまり効いてないと思われる。

廣田氏が先日こんなことを言ってくれた。
「貴方の日記最高にいい。曝け出してるのがいい。更新された時点で全部読んでるんだから‼️」と。

業務提携先の社長である西田さんも、更新されるたびに連絡をくださる。
『真・事故物件パート2/全滅』で共演した高見綾ちゃんも、DMで「河野さんのことを知るたびに素敵だなって思います」と連絡をくださる。
そして今日、以前からモダンスイマーズ関連で知り合いになり、ご自身も親御さんを看病しているマチヨさんから温かい手紙とストールが送られてきた。

上澤さんや編集のミリさん、小原編集長もいい連載だと言ってくださったけど、身内過ぎてまだまだ実感がなかったところ、ようやく少し安心している。

Twitterで「#乳癌」と検索すると、整形術後の痛みに苦しんだり、腕が上がらなくなってしまったりするケースも見受けられて不安になる。でも、ここは冷静に。情報だけに惑わされないように。ため息つきそうな心のチャックをキュッとあげる。元気に活動してる人たちも沢山いるんだし。

明日はバレンタイン。大好きな人たちに気持ちが届くといいな。

河野に義理はありません。全部本命。八方美人程の数はなく、片手指に納まる程度。さあさ、受け取った男性諸君。河野の愛は大きいぞ。しっかり受け取りたまえ。

「男は考え違いをしている。
一生懸命、無理して役割を果たしているのに、
女はちっともわかってくれないと心外に思っているだろうが、
わたくしたちは、何もそんなことを頼んでいないのよ。」

岡本太郎、岡本敏子『愛する言葉』より

『愛する言葉』 (イースト・プレス)

2月14日

今年AFF関連の助成金がないのと、自身が闘病中なのもあって、ここ2週間くらい新作映画の企画を進めるかグルグルと考えていた。

今年が勝負の年だと思っている。昨年までコロナ関連で助成金が出て映画がたくさんつくられたけど、なくなった今こそ日本映画の存続と映画製作への意地とプライドを賭けた挑戦をすべきときなのではないかと思っている。

やるもやらぬも本人次第。さぁ、どうする?河野。と。

そんな考えの中、昨晩、大喧嘩した日(1月20日)から初めて父と会った。
父は娘から食事に誘われて嬉しそうだった。
顔を見たらほっとした。たくさん話をした。
病気のこと、母のこと、これからのこと。

大喧嘩した日、父は知美の状態をちゃんとわかってあげられてなかった。と言った。
どれだけの人が知美のために動いていて、どれだけ準備が大変で、寝る間も惜しんでいたか。
日記を見たよ。と。
それがわかったとき、悪かったな。と思った。と。
映画をつくり続けられるといいね。と言ってくれた。

「後悔ないようにしなさい。人材として協力するには年老いてしまったけど、お金のことなら相談に乗るよ」と言ってくれた。

基本的に親に頼るのはあまり好きじゃないけど、なんか少し安心した。
そうだね。そうすることもあるかもしれないね。なんて言ったけど、本当はありがとう。って思った。

その言葉を聞いて決心がついた。

早起きして高橋洋監督と新しい企画のクラウドファンディングのブリーフを組み立てる。
どんな挑戦になるかはわからない。もしかしたら長編は撮れないかもしれない。でも、やってみなくちゃわからない。

組み立てたブリーフを送り、高橋監督からのフィードバックを得て調整。

『夜は千の眼を持つ』のリメイクだ。
監督はもちろん、スタッフの中瀬くんや玉川さんや川口くんがいる。
私やるよ。希望がある限り。

「美人じゃない 魔法もない
バカな君が好きさ
途中から 変わっても
全部許してやろう
夢で見たあの場所に立つ日まで
僕らは少しずつ進む あくまでも」

スピッツ『夢追い虫』より

2月15日

今年公開が決定しているプロデュース作品のご挨拶を各劇場に伺い実施。

まだまだ先ですけど。なんてお伝えしつつももう、時間はそこまでないな。とも思う。

現地視察で宣伝ブースではどんなことが出来るだろうとか、この写真ブースは上澤さんの写真で埋め尽くしたいとか。早めに配給元の財前さんとお話を詰めてチャンスを逃したくないな。と1人模索。

最後の最後まで1人になっても出来ることをやり続けよう。限られた時間の中できっと出来ることってあるはず。頭を絞れ。フル回転だ。最後に信じられるのは己のみ。

そろそろ、『水いらずの星』のポストカードの在庫がなくなってきたので増刷する?か、ある程度情報を更新して新規でつくるか。パンフレットチームと一度相談が必要かも。タイトルテキストに関しても越川監督に伺う必要性。

しこりが前より大きくなったような。痩せたからかな。突出している部分が胸の形を少し変形させてるようなさせてないような。怖いから確認はするけど、さっと服を着て知らない振りをしてしまった。

遺伝性の可能性もあるので、血液検査を先月行い、次回その結果が出る。先生曰く、その場合は再発の可能性を最小限にするため両胸取るという方法もありますよ。アンジェリーナ・ジョリーのように。と。

両胸とったら、大きくしちゃえばいいのよ!
と言われて、そっか! そうするのもありですね(笑)と答えたこともあるけど、針検診での痛みも結構だったので、両胸の痛みはかんなりしんどいな。と体験してもいないことに不安がる。

どちらにしても、手術を受けないとね。私、映画つくらなくちゃいけないから。大好きな仲間たちと。そのためにはしっかり回復しなくちゃね。

追伸:最近、モランボンのコムタンスープにハマってる。

2月16日

高橋監督とクラウドファンディングについての情報集め。
助成金も、採択率は低いけど1箇所申請してみようと思う。
出資してくださる方を探してみようとも思う。

もしかしたら今回が一番難しい挑戦になるかもしれない。
だからスタッフィングにしてもキャスティングにしても同じ方向を見て、携わってくれる人とやりたいと思う。ここは慎重に決めよう。

「本当の負け犬とは、勝てないことを恐れて挑戦もしない奴のことだ」

映画『リトル・ミス・サンシャイン』より

〈河野の7ヶ条〉
目の前の人を大事にすること。
目の前の人に誠意を尽くすこと。
目の前のことに一生懸命になること。
簡単に出来るアクションは思い立ったらすぐにやること。
後回しにしないこと。
結果をすぐに求めないこと。
大事なものには大事だとちゃんと伝えること。

2月18日

時間を十分に使えるときにきちんと確認をしようと思っていた、上澤さんからの『水いらずの星』のスチールをじっくり確認する。

その一つ一つの場面たち、表情たち、感情たちがそこにはあって、上澤さんがこぼさないようにこぼさないようにシャッターを押し続けてくれていた姿が目に浮かび、なんとも言えない感情になる。

自分で言うのもなんだが、どんな崩れた表情をしていても、どんな格好をしていても、美しいものがそこにある。と思える。
生きようとしている二人がそこにはいたんだと思える。
作為がない、“男”と“女”がそこにいることがわかる。

“女”は永遠に“男”というものを理解できないんだろうと思う。
“女”はきっと、信じている限り待ち続けることが出来る生き物なんだと思うし、“男”はきっと、“女”はずっと待ってくれているだろうと思い続ける生き物なんだと思う。

甘えあえることこそが、愛しいと伝えあうことなのかもしれない。

これから上澤さんと『水いらずの星』の本編前の写真を撮るなら、“女”が坂出で一人で暮らしていたときの写真を撮ってもらいたいと思った。

どんな気持ちで、どんな表情で、どんな佇まいであの街に逃げてきたんだろう。
心細かっただろう、自分を責めただろう、海を越えたいのに越えられなかったのだろう。
鏡に映る自分をどんな風に見つめていたのだろう。老いていく自分。堕ちていく自分。
ただただ、一生懸命やっとのことで呼吸をして、誰にも本当の意味で抱きしめてもらうことなく、その命を終わりまで漂わせていくのだろう。絶望に蓋をして暗闇を彷徨っていたのだろう。

そんな彼女が愛しくて仕方ない。

涙が溢れました。そんな彼女を想って涙が溢れた夜でした。

本当に素晴らしいスチールでした。

2月22日

乳頭を切除するのは免れません。
と言われた。

声が震えるのをごまかすためにお腹からキュッと締めて、「はい。わかりました」と答えた。

現状の形成技術を聞いた限りでは、乳頭から端まで一直線に傷がつくことになる。

もう仕事として私がその胸を人前に出せることはないだろう。
いや、女としても。

気合いとは真逆のところで、
涙がポロポロと勝手に流れ出して止まらなくなった。

先生がティッシュを差し出してくれた。

配慮という言葉がある。
その行動は先生なりの私に対する配慮だった。

最近思う。
配慮とは、その人の意志を尊重してこそ意味を持つのではないかと思う。

私は仕事がしたい。仕事を優先したい。
どんなに無謀だと思われようとそれが私のスタイルだ。

でも、その意志とは全く逆の配慮をされたとしたら、私は傷つく。

それをちゃんと言葉にして伝えていたのなら尚更。それが私の知らないところで行われていたなら尚更。

特に身体の、病気のことを理由にした配慮なら尚更。

私の身体は私にしかわからない。
動けないわけじゃない。
ちゃんとご飯も食べるし、ちゃんとウォーキングだって出来るし、ちゃんと笑うことだって出来る。

本当に無理なときは無理って言うよ。

だからお願い、勝手に私を止めないで。

と言うわけで、これから『別れる決心』を観ます。

別れる決心
©︎ 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

2月23日

私はクソ野郎だ。
自分は一生懸命にやっているつもりだったけど、周りだって一生懸命やっているのに、周りを慮れなくなっていた。最低だ。

甘え方を履き違えていたし、思いやりを何処かで持てなくなってた。

どんな状況であれ、ふと出た言葉にどれだけの重みがあるのかちゃんと理解しないといけない。

一番大事なものを失ってしまった。

私は謙虚でなければならない。

相手がどう思っていて、相手がどう感じているのか確認してきたつもりだけど、本当の意味では確認できてなくて、自分の意見ばかりが先行してしまっていたのかもしれない。

時間がかかるかもしれないけど、自分をきちんと見据えて省みなければならないと思う。

可愛がられることの重要性。

西田さんから言われた一言。

きちんと考えよう。

今日は上澤さんと新しいYouTube番組のスチール撮影をした。
今あるものを大切に一つずつ一つずつ。

2月25日

手術日が決定したことを両親に連絡。
現状では面会謝絶とのことで、それを伝えたら何故か父が意気消沈してた。

一人は辛いねぇ。一人は辛いよねぇ。と。

普通に話していたつもりなのに涙腺緩む。

色んなこと考えちゃって、不安になったり、ときどき感情的になっちゃったりするかもしれないけど今は仕方がないから。大丈夫だから。知美が生きていてくれればいいから。と。

生きる意味ってなんだろ。

私が生きなくちゃいけない理由ってなんだろ。

父、私はときどきわからなくなるよ。

夜、『夜は千の目を持つ』クラファンについて発表。

「おーい! 知美はまだ何とか生きてるぞー! 頑張ってるぞー!」と何かに向かって叫びたい気持ちだ。

「あたし男だったらよかったわ 力ずくで男の思うままに
ならずにすんだかもしれないだけ あたし男に生まれればよかったわ」

中島みゆき『ファイト!』より

2月27日

この日記が公表される頃にはすでに出ているであろう、梅田くんのインタビューの原稿が、1st Generationの金田さんから来着。

なるほど!と思った。

私を俳優として天真爛漫とおっしゃってくださっていた。でも他の作品で、私が天真爛漫な俳優か?というと違うような気もする。『水いらずの星』における在り方だった気もする。

最近の二つの現場にスチールで入ってくださった上澤さんが、「河野さん、現場でこんなに違うなんて!」と驚いていたことを思い出す。

役はいつも私の人格に侵入してくる。
『ザ・ミソジニー』のときも、『水いらずの星』のときも、新作映画のときも。私は不器用な俳優だから、技術とかがないから、人格を一部又は全部開け渡してしまう傾向がある。あまり良いことではない。
頭で考えると途端に事務的処理能力が稼動し、作為的な芝居をしようとしてしまうから、いつからかそれを放棄した気がする。

だから、現場に行くときは今まで考えていたことを全部消して、まっさらな状態で行くようにしている。プランニングしない。そこで起こることに対応するというか。

一方で越川監督に、よく考えなさい。とも言われた。そして、考えて出すと違うと言われた。私には演技がわからなくなった。”考える”の方向性が違うことはわかっていた。

そして、最大限に揺れだすと、監督は満足そうな顔をしていた。

余計、演技がわからなくなった。それを繰り返していくうちに、気づけば”女”に人格を開け渡してしまっていた。

カオス。

2月28日

「何回だって言うよ、世界は美しいよ
君がそれを諦めないからだよ
混沌の時代に、泥だらけの君のままで輝きを見つめていて
悲しみに向かう夜も、揺るがず光っていてよ」

羊文学『光るとき』より

助成金申請の必要書類作成が終わったー!
とりあえず自分、お疲れ様。

いつも、取り掛かるときはアーダコーダとパーツを集めて、企画趣旨や展望を書いては直し、部屋をぐるぐる回りながら頭で整理して仕上げる。

本当に大変…。いつも手探り。
でも、これを越えて奇跡的に採択されればまた映画がつくれる。それだけを希望にただひたすらパソコンと向き合う。

自主映画って本当に大変だね。

でも、やっぱり思い描いた世界があって、その世界を構築する1番の方法は(私の場合)映画というものにあって、その中で生きられる喜びを体験したくて。その憧れの為の努力なら厭わない。

そこで学んだ知識が、またその世界に焦がれてやまない誰かの為になるなら私はどんな知識だって提供するよ。

なので、情報や相談がある方。
Twitterで「@kono_tomomi」をフォローしてコメントくだされば、私からDM送らせていただきます!

夢を見てもらいたいから。夢を見てるだけで終わらせて欲しくないから。

だからやってみる。諦めないでやってみる。

BACK NUMBER
INFORMATION
『水いらずの星』
時代の流れで造船所の仕事を諦めビデオ屋でバイトをしている男は、ある日余命が僅かだと宣告される。そんなとき頭に浮かんだのは、6年前に他の男と出ていった妻の顔だった。瀬戸内海を渡り訪れた雨の坂出。しかし再会した妻は独り、男の想像を遥かに超えた傷だらけの日々を過ごしていた…。
公式Twitter: @Mizuirazu_movie 
公式Instagram: @mizuirazu_movie
©2022 松田正隆/屋号河野知美映画製作団体
監督:越川道夫
原作:松田正隆
主演:梅田誠弘 河野知美
プロデューサー:古山知美
企画・製作:屋号河野知美映画製作団体
制作協力:有限会社スローラーナー/ウッディ株式会社
配給:株式会社フルモテルモ/IhrHERz 株式会社
2023年初冬公開予定
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