PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば PINTSCOPE(ピントスコープ) 心に一本の映画があれば

映画を観た日のアレコレ No.17

劇作家・演出家
根本宗子の映画日記
2020年8月26日

なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。
誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう?
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
17回目は、劇作家・演出家 根本宗子さんの映画日記です。
日記の持ち主
劇作家・演出家
根本宗子
Shuko Nemoto
9歳で月刊「根本宗子」を旗揚げ。以後、作品全ての作・演出を一人で手掛ける。2019年12月には新国立劇場にて
音楽監督・主演に清竜人を招いて音楽劇「今、出来る、精一杯。」を上演したほか、2020年のコロナ禍にも、シアタークリエから無観客配信の新作ミュージカルを発表。
2020年9月12日(土)〜21日(月)まで、チャラン・ポ・ランタンとタッグを組み、リモート芝居、超リモートねもしゅー3配信版「超、Maria」を配信中。また、noteも日々更新中。

2020年8月26日

悲しみの底にいた日、私は部屋でじっと『ハウルの動く城』を繰り返し、繰り返し観ていました。

生活のリズムがうまく整わない日が私にはあります。誰にでもあると思うし、そんな日をどう過ごすのか、そんな日のやり過ごし方は人それぞれあると思います。
私は家のソファに体の左側を下にしてぼーっと横になり、とにかく時が経つのをじっと待つ事が多い。そうしているうちに頭の中がここではないどこかに行くような感覚になり、空想の中にいけるような気がするのです。
それでもうまく空想の世界に行けない時は、それを助けてくれるような映画を観たり、音楽を聴いたりします。
それでこの日は『ハウルの動く城』に手を伸ばしたんだと思います。

幼い頃からディズニーとジブリをずっと部屋で一人で観ていて、今でこそそういった作品が好きという事が周りに定着して来たのですが、この仕事を始めた頃、「19歳で劇団を旗揚げして、主宰をやっている作家」というイメージからか、いわゆるファンタジーのようなものに一切の興味がない人間だと思われていました。他人からのイメージなんてそんなもんですよね。

ディズニーとジブリに、私は数えきれないほど救ってもらえています。時に希望を、時に希望に似た絶望を、夢を、愛を、たくさんもらってきました。
この日観た『ハウルの動く城』はそれはそれはもう画面の中だけの事とは思えぬほど、私は主人公であるソフィに自分を重ねて、観ていました。何か共通点があるわけではありません。私は街の帽子屋さんの娘でもないし、魔法使いに出会ったこともないし、魔法でおばあちゃんにされたこともありません。でも、そこには確かに私が知っている感情がありました。

私は気に入った食べ物を繰り返し食べたり、気に入った服を毎日着たり、気に入るとずっとそれを手放せなくなる事が多く、映画も気に入るとひたすら何百回も同じものを観てしまいます。この日は一日中『ハウルの動く城』を流して、ソファから一歩も動かずひたすら画面を見つめていました。
とてもロマンティックな作品にも思えるけれど、ハウルの孤独はとてつもなく、そして同じくらいソフィも孤独を抱えていて、「誰に言っても理解されない」といったような諦めをどちらからも私は感じました。そんな二人が出会うべくして出会い、物語の序盤で二人はハウルの魔法で空中を散歩します。私はとにかくこのシーンが大好きです。このシーンが訪れるたび、私の心は救われます。
誰の人生にもこんな一瞬がきっとあって、その一瞬があるから人は生きていけるように感じます。

人から見たらそう感じられなくても、人間にはそれぞれの心地の良い時間や状況がある。
素晴らしい作品は、暗い部屋を、世界で一番居心地の良い場所へと変えてくれます。

孤独を感じた時は、私はこれからも強く、そしてものすごく繊細でわがままで自分勝手で優しいハウルに出会うために、そしてそんなハウルの手を決して離さないソフィに出会うために、『ハウルの動く城』を観るのだと思います。

映画館でポップコーンと炭酸と一緒に観る映画も素晴らしいけれど、自分の部屋の色を変えてくれる映画を一人で観るのが私にとっての幸せな時間です。

BACK NUMBER
FEATURED FILM
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
監督・脚本 宮崎駿
音楽:久石譲
声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、我修院達也、 神木隆之介
PROFILE
劇作家・演出家
根本宗子
Shuko Nemoto
9歳で月刊「根本宗子」を旗揚げ。以後、作品全ての作・演出を一人で手掛ける。2019年12月には新国立劇場にて
音楽監督・主演に清竜人を招いて音楽劇「今、出来る、精一杯。」を上演したほか、2020年のコロナ禍にも、シアタークリエから無観客配信の新作ミュージカルを発表。
2020年9月12日(土)〜21日(月)まで、チャラン・ポ・ランタンとタッグを組み、リモート芝居、超リモートねもしゅー3配信版「超、Maria」を配信中。また、noteも日々更新中。
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