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映画を観た日のアレコレ No.29

グラフィックデザイナー
コンビーフ太郎の映画日記
2020年12月13日

なかなか思うように外に出かけられない今、どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。
誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう?
日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
29回目は、グラフィックデザイナー コンビーフ太郎さんの映画日記です。
日記の持ち主
グラフィックデザイナー
コンビーフ太郎
kon-bi-futarou
1989年、佐賀県出身。2019年からTwitterで勝手に作った映画ポスターを公開。

2020年12月13日

さて、困った。
私は映画が好きな方ではあるが、日常的にたくさんは観ない。常々できれば映画館に行きたいなと思ってはいるが、おそらく好事家に比べれば圧倒的に少ない。それにソフトや配信もあまり観ない。観るとするなら「まぁ、時間があれば…」という極めて消極的な姿勢。映画ポスターを作っておいてこの体たらく。大変面目ない。
また今年は映画館と縁遠くなってしまった一年だった。もともと出不精な上に、より外へ出るのは億劫に思うようになった。さらに言えば、最近は土日も仕事をするか、映画ポスターを作るかのどちらかで一日が過ぎる。パソコンの前で大半を過ごし、あっという間に時間はたち、うだつが上がらないウイークデーだ。
なのでこのコラムの依頼があった時、映画館に行った日を軸に書きたいなと何となく思った。

言わずもがな映画館は良い。特別感がある。
最寄りの映画館が車で一時間半という田舎で育った。レンタルショップもあったが、こづかい制ではなかったため自由に観る事はできなかった。なので子供の頃に親に連れられ、映画館に行く事はイベントだった。眩く煌る広大なスクリーン、身体を撼わす大音量、そして暗闇。この3つさえあれば大抵の映画は1.25~1.5倍増しに面白く感じる。できれば映画館でと思う最大の理由だ。ちなみに、原初の映画体験として一番印象的なのは『ジュラシック・パーク』(1993)。これは決定的だ。それまで映画といえば、怪獣映画か、東映アニメだよねと言ってるところに黒船来航だ。江戸の人々の驚きはよく分かる。ショックと興奮を刻まれ、これだけは子供の頃から何回も観ている。
それに観た時の様子や、出来事も現場でしか体験は出来ない。『ゴーン・ガール』(2014)の上映後、客席が明るくなった瞬間のエスポワール号(※1)ばりの「ざわ…ざわ…」感は今でも最高の反応だったと記憶する。『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)の上映後、客席でイカツイ輩系の男同士が喧嘩を始めたのも「怪獣映画二本立てか! 気が利いている!」と感心した。観客ではないが、『ハッピーボイス・キラー』(2014)を観た後、満面の笑みで映画館を出た矢先、二十代らしき女の子が、私をゴミを見るように睨みつけた。それぞれが覗くことができない世界を持っているというイイ例だ。とにかく大したことのない何かが起こるものだ。

その何かに遭遇するため映画館へ行こうと決めたはいいが、結局、原稿の締切ギリギリの日曜日になってしまった。土曜は仕事で一日が終わり、今日はポスターの制作も進めなければいけない。ローカルのテレビ番組をBGM代わりに作業を進めていく。ポーションのカフェラテを啜りながらポチポチ、カチカチ…。瞬く間に数時間が経ち、一区切りついたのでここまで。外はすでに薄ら暗い。福岡は十二月になって一気に冬の空気になった。

今日は行く途中で、早めの晩御飯を食べようと決めていた。目星はトンテキのお店。トンテキという言葉の響きの塩梅の良さ。小学生の頃、『銀河鉄道999』を読んでビフテキという言葉が実物以上の美味しさを表しているなと思ったが、トンテキには「トン」という音に少し間の抜けた可愛らしさもある。
大通りを抜け、裏道に入ったところに質素な店構え。老若男女で混んでいる。メニューはない。トンテキ定食のみ。このハードコアな姿勢に好感が持てる。熱い鉄板にのったそれは案の定、旨かった。薬味は、わさびおろしと辛味噌。ほとんど無意識に箸が進む。気分は『ドランク・モンキー/酔拳』(1978)のジャッキー・チェンだ。もしくは『南極料理人』(2009)の隊員達。黙々と一気に胃に押し込んで店を後にする。当たりだった。

観るのは『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)~ぼくが選ぶ未来~』。前々から評判の良さは聞く。席は日曜の夜にしてはぼちぼち埋まっている。
内容は聞いていた以上にゴリゴリのアクション映画だった。最近のMCUやDCEUを意識したド派手な戦闘シーン。特にクライマックスで連想したのが『マン・オブ・スティール』(2013)。あのどうかしているとしか言えない、クリプトン人の破壊行為で「あぁこれはディザスタームービー(※2)なんだ…」とジャンルが切り替わったと同時に、妙な不穏感が拭えない名場面があるが、あれから凄惨さを取り除いて、安心して観れるようにしたような妖精達の術合戦は圧巻だ。戦闘といえば最近は『ドクター・スリープ』(2019)の超能力バトルも興奮したが、こちらも負けず劣らず。
食べ応えのあるがっつりアクションと、ピンと張った緊張を緩和させるギャグ。当たりだった。

※1 漫画『賭博黙示録カイジ』に登場するカジノ船の名称 

※2 災害や大惨事など突然の異常事態に立ち向かう人々を描く映画のジャンル

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PROFILE
グラフィックデザイナー
コンビーフ太郎
kon-bi-futarou
1989年、佐賀県出身。2019年からTwitterで勝手に作った映画ポスターを公開。
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