目次
2021年2月23日(祝)
映画界は、鬼滅VS花恋(※1)、の盛り上がりを見せ、映画好きとしては、嬉しい限り。
担当している、『はやドキ!』の生放送でも今朝その話題を扱った。
VTRを見ながら、花恋の麦くんと絹ちゃん、頭から少しは離れたかなぁ? と、宇多丸さんを思い出し、何だか可笑しくて幸せな気持ちになった(ご一緒しているラジオで、花恋の世界が頭から離れないとおっしゃっていた)。
映画の話題になると、往々にして、宇多丸さんとアトロク(※2)が頭を過ぎる。そして、あぁ〜何か映画観たいなぁ、とスイッチが。
「まだ観ぬ映画」は今後も尽きない。そう考えると気持ちが和らぐのは、いつもの事。
今日は祝日だし、みんな花恋、観に行くのかなぁ、と会社を出た。映画館も色んな感染症対策をして、麦と絹に会わせてくれている。感謝。
打ち合わせ、生放送、ニュース、その時間が長いほど、終わった後の解放感は大きい。
仕事モードに入ると食欲がなくなるのは昔から。反面、終わった後の食欲は極端に強くなる。普段は食べない甘い物を欲するのも、そんなタイミング。
スーパーへ向かおう。
よし、食事と配信映画だ、流れが決まる。
はりきってこもるぞ、と。
何を食べて、何を観よう?
選べるって、楽しくて、何だか有難い。
祝日の早朝、人出の少ないスーパー。穏やかな日常を思い出させてくれる。
と、いうのも束の間
そこから、ずいぶんと振り幅の大きい日になった。
ふらふらしていると、特売を主張しているプリン三兄弟に遭遇。
足が止まる。
特売に、ではなく。
あの強烈なラストシーンが頭の中で再上映されて。
『その夜の侍』
暗い茶の間、眼鏡をかけた中村(堺雅人さん)、上半身裸、プリン3個パック、固定電話。
留守録から聴こえてくる女性の声は、妻の最後の肉声だ。
あの日、あの時、彼は妻の電話に出ずに、好物のプリンを食べていた(作品冒頭、大好物のプリンを、妻に内緒で、こっそりだけど夢中、に食べる様は、いきなり心を掴まれる)。
そして妻はひき逃げにあった。その後の中村を描いた物語。
映画の最後。
何かを決意するかのように、音声を消去。
目の前には、プリン3個
頭に乗せて潰す、
額に乗せて潰す、
両手に乗せて、顔面ですり潰す。
もう声を聴かない。
消した。
もうプリンを食べない。
潰した。
それを自分に擦り込んだ。
そこで映画が終わる。
あの時、彼は何を想い、その後どんな人生を生きたのか。
もう一度、中村を観てみよう。
生放送終わり、早朝のスーパー、アナウンサー、がそんな事を考えながらプリンを見つめている。
自分でも何をしてるんだろうと、思えてくるけれど、思い出してしまったので後には引けない。
店員さんの視線を感じた。
「安売りで何を迷う事があろうか」
そんな心の声が聴こえてくるようで、そそくさとプリンをカゴに入れた。
ちなみに…
こうした瞬間を迎えるのは珍しい事ではなくてなっている。
コロナ禍で増えた配信映画と自炊。
食材や料理のパッケージを目にする度、「映画の食事シーン」を思い出す、 そんな習慣ができた。
自分にとって映画×スーパーは相性が良い事を再発見。
「映画における食」が好きなのだ。
特に、人が何かを食べているシーンが気になる。
映画という作品、食べているという事実。作り物の中に、避けられないドキュメントが混じっている、という状況がまずツボ。
見事に作り込まれた演技。
口に入れ、咀嚼し、飲み込み、消化する、という現実。
そんなシーンをスクリーンで目の当たりすると、何故か心が躍る。
何だか独特で変だ、と感じるが、自分だけの楽しみ方、と思い込むようにしている。
そして
どんな物を? どこで? どんな画角で? 誰と? どんな様で? どんなセリフを交えて? どのくらいのスピードで? どのくらいの行儀で?
食べているのか
目を凝らしていくのが楽しくてしょうがない。
それらに含まれるあらゆるメッセージを、できる限り細かく読み取り、作品解釈に繋げていく喜び。
だから食事シーンで訴える物が強ければ強いほど、その作品が好きになるし、喝采を送りたくなる。
例えば去年の映画でいうと…
野菜を見ると、『ミッドサマー』
サーモンやパスタを見ると、『ボーダー 二つの世界』
牛乳を見ると、『1917 命をかけた伝令』
焼きそばを見ると、『パラサイト 半地下の家族』
ドーナツを見ると、『リチャード・ジュエル』
などなど…
思い入れのあるシーンが浮かんで、店内でニヤニヤしている、という、コロナ禍における一人遊び。
こんな時勢でも、人は自分が楽しくなるよう、現状に順応する力を発揮するんだろうと思えた。
つい話が逸れてしまった。
そんなこんなで
穏やかな祝日の朝。
食後に『その夜の侍』を再鑑賞。
プリンを浴びるように頭部ですり潰す中村。
プリンは自身の後悔の象徴だ。
皮膚から自分の中に入れ込んで、
忘れない、逃げない、刻んで生きていく、そんな覚悟を表す行為だったのか?
堺雅人さんの名演後、プリンを食べた。
1個目は、穏やかな夫婦生活を送る中村を想って。
甘かった。
柔らかい口当たり。
口溶け、鼻を抜けるカラメルの香ばしさ、卵のまろやかさと、広がる甘み。
2個目は、後悔と失望感に苛まれる中村を想って。
味気なかった。
意識は自分だけど、別の人間の口が食べているような、何だか知らぬ間に甘ったるい、という程度。味覚に他人事のような距離感があった。
3個目は、きちんと皿に乗せ、食べずにじっと見て、その後の中村を想像した。
ただそこにある物、に見えた。
柔らかそうにも見えなかった。
食品サンプルのように無機質。
上が茶色で下が黄色の塊。
あぁ〜
今日も映画の中に入れた。
そして、出てきた後のこの充足感。
寝付けそうにないパターン。
嬉しい悲鳴だ。
※1 花恋…映画『花束みたいな恋をした』。
麦(菅田将暉)と絹(有村架純)の出会いから別れを等身大に描いたラブストーリー。
※2 アトロク…ライムスターの宇多丸がパーソナリティーを務める、TBSラジオの番組『アフター6ジャンクション』。山本アナは金曜パートナー担当。
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