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2022年3月20日
「芦田さんは、なぜそんなに映画を観るんですか?」
ある日、番組のスタッフに聞かれた。
確かに私はSNS上やブログやFilmarksで映画の私的感想を更新している。
「この人はクソ忙しい合間を縫うようになぜ映画を観続けているんだろう?」そう思われても仕方がない。
その時は「映画、面白いじゃん」というバラエティ番組の総合演出としては絶対に失格の返答で会話をシャットアウトさせてしまったのだが、せっかくのチャンスを頂いたので言語化してみようと思う。
私の仕事は“面白いこと(企画)を考え、具現(TV番組)化すること”である。
しかし面白く斬新な企画を思いつくことは簡単ではない。だから映画を観るのだ。
これはいささか極論ではあるが、映画の視聴動機の大きな一つであることは間違いがないので少し掘り下げてみる。
そもそも企画の着想方法は大きく分けて2種類あると思う。
1つ目は0→1を着想する。つまり、何もない状態から“ふと閃いた”パターン。
2つ目は“企画の掛け算”。これは、数多ある既存のテレビバラエティの企画を掛け算する着想方法だ。
例えば私が演出している『あざとくて何が悪いの?』という企画は、現在バラエティ番組における演出手法として多用されている“再現ドラマ”という企画に“あざといエピソード”という掛け算を行った。
そしてそのVTRを見て“あざとさを解説する”という3つ目の掛け算を説得力のあるMC(田中みな実さん、弘中綾香さん、山里亮太さん)が行うことを番組化したわけだ。
この“企画の掛け算”は優れた面白い映画においても発見することができる。
例えば、私の人生トップ3映画に刻まれているドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』(原作はテッド・チャンの小説『あなたの人生の物語』)という映画。(今日で5回目の観賞)
この映画は、“宇宙人襲来モノ“という世界共通のドベタ企画に「この掛け算があったか!」といういくつもの秀逸な視点を加えることで、観賞者を魅了する。
読者の皆さんは、宇宙人が地球にやってきた場合、どんなストーリーを予想するだろうか?
この類の物語のおおよそは、宇宙人が地球を総攻撃! からの地球人一致団結で撃退!
とにもかくにも宇宙人は「侵略者」であり悪者で、ドンパチ戦争が始まってしまう。
しかし『メッセージ』はそんなお決まり通りに話が進まないから最高。
まず地球の12ヶ所に突然謎の巨大宇宙船が現れ、地球人は混乱する。ここまでは定番の流れだが、以降の人類側の対応が自分が今まで観てきた地球侵略型映画とは大きく一線を画す。
まずエイミー・アダムス演じる主人公の言語学者が気持ちの悪いタコのような巨大宇宙人とコミュニケーションをとろうとするのだ。
未知との遭遇が実際に起きたらどうするか? そりゃそうだ、いきなり問答無用で攻撃するとか野蛮すぎるし、人類には自らを発展させてきた言語があるのだから。
しかし、地球外生命体のコミュニケーションは容易ではない。そもそも宇宙人に「言語」という概念が無いかも知れないし、あったとしても宇宙人にとっての「言語」は人類にとっての「言語」とイコールではないから。
あなたが無人島に行って、今まで見たことのない種族に遭遇して今まで聞いたこともない言語で話しかけられたとき、どうやってコミュニケーションをとる?ってことをこの映画は忠実に丁寧に描き出す。
宇宙人が地球人に伝えにきた「メッセージ」は何なのか? ここからさらにこの映画は“ラブストーリー”と“人間が生きる意味”すらも掛け算してくるから凄まじい。そんな極上の掛け算が結集した素晴らしい結末は是非本編を観ていただきたいのだが、そんな角度で宇宙人を描く映画は今まであっただろうか? ここに企画の掛け算の発見がある。
他にも例えば、私が大好きな映画に『(500)日のサマー』という映画がある。
一人の青年が美しきサマーという女性に恋して振り回され、失恋するまでの500日間を描いた映画だ。
数多ある恋愛映画と一線を画すこの映画の新しさは、ほぼ全編に渡って主人公の男性目線“のみ”で描かれている点だ。だからまともにこの映画を観ると、「サマーってとんでもないあざとい悪女だ! 最低最悪!」と憤る観賞者が現れる。しかし冷静になってこの映画を観返してみると、「あれ? サマーは無しのサイン出してるな」「主人公の勘違い暴走だな」という具合に、男の悲しき勘違いポジティブ暴走恋愛物語であることにも気がつく。
しかしそれでも「初めから遊びのつもりなら、あんな思わせぶりな態度取るなよ!」「これだから男はバカねえ」などと、観る者によって観賞後の解釈がハッキリと割れて、とにかく観た者同士の会話が盛り上がる映画ランキング上位の映画でもある。
ちなみに個人的なこの映画の感想は、「騙されるのも悪くない」です。皆さんはどうですか?
こんなふうに“人の感性を刺激し、気づきを与え、人と話したくなる”という衝動を生み出す作品も、エンタメコンテンツとして非常に優れた証だと思う。そんな刺激をもらえるから私は映画を観るのかもしれない。
余談ではあるが、今から5年ほど前にたまたまテレビで『王様のブランチ』を見ていたらMCの佐藤栞里さんがオススメ映画第1位に『(500日)のサマー」』をあげていた。「さすがのセンスだなあ」と感心していたのだが、その10秒後に「いや、待てよ。佐藤栞里さんは何を持って面白いと言ってるんだ? 散々男を振り回す側のサマーの気持ちに共感してるのか!? ん? どっちだ?」と気になって仕方がなくなったところで、そのコーナーは終わってしまった。さすが、今やバラエティ女王とも言える佐藤栞里さん。好きな映画の答えひとつで、ここまで聞いた側の解釈に揺さぶりをかける(結果、佐藤栞里のことを気になってしまっている)。あざとい。
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