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映画を観た日のアレコレ No.94

にゃんこスター
アンゴラ村長の映画日記
2024年7月30日

映画を観た日のアレコレ
なかなか思うように外に出かけられなかった時を経て、今どんな風に1日を過ごしていますか? 映画を観ていますか?
何を食べ、何を思い、どんな映画を観たのか。 誰かの“映画を観た一日”を覗いてみたら、どんな風景が見えるでしょう? 日常の中に溶け込む、映画のある風景を映し出す連載「映画を観た日のアレコレ」。
94回目は、にゃんこスター アンゴラ村長さんの映画日記です。
日記の持ち主
お笑い芸人
アンゴラ村長(にゃんこスター)
Angola Soncho
埼玉県出身。早稲田大学文学部卒業。
2017年、お笑いコンビ・にゃんこスター結成の5カ月後に、縄跳びをとぶネタで『キングオブコント』準優勝。現在は、芸人としての活動の傍ら、エッセイなどの文筆業も注目を浴びる。デジタル写真集「151センチ、48キロ」(講談社)が異例のスピードで1万ダウンロードを突破するなど話題となっている。

2024年7月30日

遊園地って言葉、魔法すぎると思います。
ただ漢字が3つ並んでいるだけなのに、見るだけで目のどこかにふわりと観覧車やジェットコースターの影がよぎり、まんまと楽しい気持ちにさせられます。目なのか、脳なのか、ちょっとその詳しい部位は分からないのですが、その、自分のどこかが見せてくれるゆらゆらしたものに簡単に心奪われます。

そんな想像をより私物化して、好き勝手に育てたものが妄想だと思っています。妄想の世界ではさっきの観覧車を時速280キロで回してもいいわけですし、春夏秋冬の四季をめぐるジェットコースターがあってもいいわけです。どの季節の服で乗るか迷いますね。

ミシェル・ゴンドリー監督の『恋愛睡眠のすすめ』を観たとき、そういう、他人にとっての遊園地を初めて客観的に見たような感動を覚えました。
主人公のステファンは、想像力がすごくて現実と妄想と夢の世界の線引きがよく曖昧になってしまいます。会社で働く…という超現実世界にいたはずが、ふと窓の外を見ると、街が紙芝居のようにペラペラになっていて夢の中だったことに気付きます。彼はそこで気に食わない上司を蜘蛛の足が生えた電気シェーバーで成敗したりします。現実であった上司への怒りを「電気シェーバー蜘蛛」という夢みたいな武器で倒す、そんな非現実的な解決法にどこか憧れてしまいます。

今日は、近所のカフェに行ってアイスコーヒーを飲みながらネタを書きました。
以前「ポップコーン卓球」というネタをライブでやったのですが、改善の余地がありまくると思って直したかったのです。たぶん伝わっていると思うのですが、念のため「ポップコーン卓球」を説明しますと…

ポップコーンって作る時にポンッと高く跳ね上がりますよね。それを卓球のボールに見立てて「サーッ!」と卓球ラケットで打つのがポップコーン卓球です。今、現実の話をしています。でもコントなので、コンロもポップコーンも、それに似せた手作りの小道具を使っています。
そんな夢みたいなネタをしておきながらも、気になるのは「ストーリーの辻褄が合ってない」だとか「前半と後半の感情がつながっていない」などの現実的な点ばかり。お客さんの共感という現実を入り口に、徐々に「それならポップコーン卓球も意味が分かる」という世界に導かなければならないのです。私もよく現実と妄想と夢を行き来しています。

だからつい『恋愛睡眠のすすめ』のステファンを追ってしまうのかもしれません。そして、そんな妄想の先にある苦しさからも目が離せないのかもしれません。妄想の世界は、自分の好きだけで溢れているはずなのに、なぜか時折上手くいかないのです。例えばステファンも、好きな人からもらった嬉しい言葉を何度も反芻しているうちに、気付けば「自分にそんなことが起こるはずない。だからこれも妄想では?」と勝手に怒りへと変わってしまうのです。

考えすぎて落ち込むと書けば、多くの人も経験があるかもしれません。どうしてか人は自分を追い詰めることにも妄想の力を使ってしまいます。でも、同じ力を素敵な方向に活かせば夢のような遊園地だって作れることを私はいつまでも覚えていたいです。

今日だって、本当は家にこもり、布団の上にパソコンを持ち込んでこの原稿を書いていました。しかし「今日は、近所のカフェに行ってアイスコーヒー片手にネタを書きました。」とあったように、妄想の中ではカフェでカタカタとキーボードを鳴らしていました。なんか、白いジレとか着て。たまにワイヤレスイヤホンで電話に出て。カバンにはお気に入りの硬水が入っていて。すみません。かっこいい自分を妄想した時に浮かんだのがそれだったので、今日は映画の内容に免じてカフェに行ったことにしていいかと勝負に出てみました。ちょっとこれは妄想というかシンプルに嘘だったかもしれません。
でも、あの、妄想に負けないくらい現実も頑張ります。

アンゴラ村長の映画日記
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PROFILE
お笑い芸人
アンゴラ村長(にゃんこスター)
Angola Soncho
埼玉県出身。早稲田大学文学部卒業。
2017年、お笑いコンビ・にゃんこスター結成の5カ月後に、縄跳びをとぶネタで『キングオブコント』準優勝。現在は、芸人としての活動の傍ら、エッセイなどの文筆業も注目を浴びる。デジタル写真集「151センチ、48キロ」(講談社)が異例のスピードで1万ダウンロードを突破するなど話題となっている。
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