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1981年に公開されたインディ・ジョーンズシリーズ第1作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』で、ネパールに向かったインディ・ジョーンズ。
その街の酒場には群衆に囲まれながら透明な蒸留酒をちいさなグラスに注いで交互にあおる男と女の姿。どちらも限界まで酔っぱらっているように見えましたが、結局男がぶっ倒れて終了。この映画のヒロインである女は掛け金を集めてお客さんを全員追い出し、そのまま片づけをはじめます。
直後にその酒場でアーク《聖櫃》の手がかりを奪い合うインディ・ジョーンズとナチスの手先の銃撃戦が繰り広げられますが、その最中、一発の銃弾がカウンターに置かれた酒樽に命中します。
追い込まれた状態でその穴からこぼれでる酒をそのまま飲んで再び戦うヒロインを観ていて、僕はバーボンウイスキーが飲みたくなりました。
アメリカで作られるバーボンウイスキーはホワイトオークという木材で作られた樽で熟成します。樽の中を炎で焦がし、内側が焦げた樽に入れて熟成させることでバーボンウイスキーにはなんともいえない甘い香りがつくのです。
そのままロックも美味しいですが、僕はちょっと濃いめのハイボール(バーボンウイスキー30mlに炭酸水90ml)が好きです。すっきりと飲めるのに、甘い香りが抜けていくのがたまりません。
ところでみなさん、ウイスキーの作り方をご存知でしょうか?
ウイスキーの原材料は二条大麦と水です。
麦にはさまざまな種類がありますが、ざっくり言うと小麦はグルテンを多く含むのでパンや麺に加工され、大麦は水分をよく吸うので麦ご飯など食用に向きます。
さらに大麦の中でも二条大麦はでんぷん質が豊富で、六条大麦はタンパク質が豊富です。そして、でんぷん質が豊富な二条大麦がビールや麦焼酎、ウイスキーの原材料になっているのです。
二条大麦を水にひたすと芽が出てきます。この時、麦の中のでんぷんが糖分に変わります。このまま芽を出し続けると糖分がなくなっていくので、一気に乾燥させてしまいます。これを乾燥麦芽と呼びます。
乾燥麦芽を砕いて、温水といっしょにゆっくりと混ぜると甘い麦汁が出来ます。
そこに酵母を加えて発酵させるとホップの入っていないビールのようなものが出来ます。この液体を釜の中に入れて70度から80度くらいで熱するとアルコール分だけが先に蒸気となって出てきます。1回だけじゃなく、2回以上繰り返すとアルコール分が80%くらいまで高まります。水を加えてアルコール分を62.5%以下まで調整したあと樽に入れて貯蔵します。
この出来たての、樽に入れる前のウイスキーを「ニューポット」といいます。アルコール度数が強く、荒々しく、これだけ飲んでもおいしいと感じない人が多いです。僕も飲んでみましたがあまりおいしいとは思いませんでした。
でも、ウイスキーを作っている人たちはニューポットを飲んで、その液体が熟成を経るとどんなウイスキーに変貌するのか、ふたつの可能性を予測するそうです。
ひとつはどこまで美味しくなるか、もうひとつは何年先まで熟成し続けることが出来るか。
インディ・ジョーンズシリーズの主役を演じたハリソン・フォード。彼は22歳のころ、コロンビアと契約を結んで俳優となったものの、7年間まったく鳴かず飛ばずで契約を打ち切られてしまいました。彼は早くに結婚していたため家族を養わなければならず、大工となってハリウッド界隈で活躍していました。
『アメリカン・グラフィティ』という映画で監督のジョージ・ルーカスと出会ったのが31歳、そして35歳でルーカスに『スター・ウォーズ』のハン・ソロ役として抜擢されました。
ハリソン・フォードのもつ可能性に最初に気づいたひとり、ジョージ・ルーカス。次に彼が製作総指揮をとった映画、インディ・ジョーンズシリーズ第1作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』で主役に抜擢しました。監督はスティーブン・スピルバーグ。この映画は大ヒットしてシリーズ化され、1984年、1989年、そして2008年にも新作が公開されました。
二人の監督によって可能性を見いだされたハリソン・フォードは、その後『インディ・ジョーンズ』シリーズ以外にも次々と話題作に出演し、ハリウッドの中でどんどん存在感を増していきます。
時にはストレートで飲むウイスキーのように、最初から最後までヘビーでシリアスでどっしりした役。
また、ロックで飲むウイスキーのように、時間の経過とともに香りも味わいもおどろくほど変わっていく役。
そして、バーボンで作るハイボールのように軽やかに画面を通りすぎながらも甘い印象を残していくような役。
多種多様な役でいろいろなジャンルの映画に出演し、常にハリウッド最前線のホットな場所で活躍し続けてきました。
バーボンウイスキーは気温が高いところで貯蔵されていて、寒い地域で作られるスコッチウイスキーやアイリッシュウイスキーと比べるととても早く熟成がすすんでいきます。そのぶん樽から染み出てくる甘さや香りもより早くよりたくさんウイスキーに移っていきます。年月を経るごとに樽の中で起こる不思議な化学反応によって、ウイスキーの香りと味わいはより複雑に変わっていきます。
今年9月、ディズニーのイベントでひとつの発表がありました。
なんと4度の延期を経て、いよいよ『インディ・ジョーンズ5』の全米公開日が2023年6月30日に決定(※日本での公開は2023年夏予定)。公開発表の際に
『これで最後です。もう二度とみなさんのために、どこかから落ちたりはしませんよ』
と話したハリソン・フォードは、公開日の2週間後には81歳の誕生日を迎えます。ジョージ・ルーカスもまさかこんなに長い間彼が熟成しつづけるとはおもってなかったのではないでしょうか。
第1作公開時は39歳だった彼が42年の時を越えてどういう熟成を遂げたのか、今からとても楽しみです。僕はバーボンウイスキーを飲んで過去の作品をゆっくり観ながらその日を待ちたいと思います。
◎『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』をツマミに飲みたいお酒
僕が好きなバーボンウイスキーはこちらの3種類。ロックで飲むとどれも濃厚な甘さを感じます。ソーダで濃いめに割ると甘い香りが口の中で弾けて広がって、それがとっても心地いいです。
メーカーズマーク 46は、熟成する樽の中にさらに焦がした棒状の樽材をいれて濃厚な甘さを出したウイスキー。
タウンブランチバーボンは、昔からの伝統的製法でキャラメルのような甘さを出したウイスキー。
イーグルレア10年は、ひとつの樽に入ったウイスキーだけを他とブレンドせずにそのままボトルに詰めたウイスキー。通常4年か5年で出荷されることが多いバーボンとしてはかなりの長期熟成です。
どれもバーボンウイスキーとしては少し値がはりますが、味も香りも素晴らしいウイスキーです。ぜひお試しください。
●メーカーズマーク46
●タウンブランチバーボン
●イーグルレア10年
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