こんにちは! 編集部の川口です。
いきなりですが、先日、最寄りの駅近にあるレンタルDVDショップで、シリーズものの映画を借りたときのこと。店員さんからレジで「これシリーズの順序が飛んでいますが大丈夫ですか?」と声をかけられました。
その時、わたしはなんだか無性に嬉しくなりました。「この店員さんも、この映画観たことあるのかな?」と、共有できたような気がしたのです。間違えやすいシリーズだから、声かけするようにお店から伝えられているだけかもしれないけれど、自分が好きな映画についてたった一言でもコミュニケーションをとれたのが嬉しかったんだと思います。
そんなことがあったので、ますます「映画好きの人が、気軽に足を運べて、映画を通した交流ができたり、新しい映画との出会いができたりするお店があったらいいのに…」という思いが強まりました! 早く、そういうお店をPINTSCOPEでつくって、わたしが通いたい〜!!
仕事帰りや休日にふらっと立ち寄って、思いもよらぬ着眼点でセレクトされた映画DVDの棚を物色したり、店主さんや常連さんと、並べられた映画をきっかけに映画トークに華が咲いたり。そのお店に足を運ぶだけで、新しい映画との出会いや、映画を通した人との交流にわくわくして元気が出るような「映画好きにとっての夢のショップ」。この連載は、そんな「あったらいいな」というお店を自らでつくってしまおう! という企画です。
(企画スタートのきっかけは、 をどうぞ)PINTSCOPEショップをつくろう! vol.1「映画好きにとっての、夢のショップとは? の巻。」
ということで、まずは、夢のショップのモデルとなるようなお店があれば、ヒントをもらいに訪ねたい! と考え、編集部は独自に、約100名の映画好きの方へ「映画好きが集まる場所・お店」についてアンケートを実施しました。
Q.「映画好きにおすすめの場所(お店・コミュニティスーペースなど)があったら教えてください。」
回答にあがってきたのは映画館の名前がちらほら。でもそれ以外の特定のスペースの名はあがりませんでした…。つまり映画好きの人でもそういう場所を知らない、もしくは、ないということのようなんです。ならば、なおさらPINTSCOPEでつくらなくちゃ!
…と、思いを強くしたものの、もちろんお店づくりは未経験の編集部一同。どうにかお店づくりのヒントがほしいと、情報収集をしてみました。映画に的を絞らなければ、カルチャーをテーマに新しい出会いや交流をもたらしてくれる場所があるらしいんです。では、そのお店の方に、まずはお話を聞いてみよう! ということに。
情報収集した結果、今回編集部が取材したお店はこちら。
「文喫 六本木」「Readin’ Writin’ BOOKSTORE」。
どちらも、ついつい長居してしまう独自のお店づくりが話題の本屋さんです。早速、問い合わせてみたところ、どちらも取材を受けてくださるとのこと!
ということで、まずは2018年12月にオープンしたばかりの文喫さんへ行ってきました。
文喫のコンセプトは「本と出会うための本屋」。
お店の公式ページには「偶然の出会い、一目惚れの瞬間、深みにはまる本との関係。読む人も、そうでない人も、きっと本のことが好きになる。」と載っています。まさに、PINTSCOPEが映画で掲げるコンセプトと重なっているではないですか!
文喫は、入場料1,500円を支払って入店するというシステムをとっています。入場料を払って、本屋さんに入るなんて不思議な感覚です。
その理由を店長の伊藤晃さんにお伺いしたところ、「美術館で絵を鑑賞する、映画館で映画を観ることと同じように、本屋さんで本を選ぶ時間に価値があると考えたからなんです」というお答えが。
しかし現状、本屋さんは無料で入店可能なのが普通です。
そんな中、どうしたら本を選ぶ時間を価値あるものだと認識してもらえるのか。
そう考えたときに、文喫では「本を選ぶための最高の空間」をお客さんに提供することにしたといいます。
たとえばお客さんが本を見繕っている途中で「何か飲みたいな、食べたいな」と思ったら、コーヒーと煎茶はお代わり自由。お腹がすけば、喫茶室でハヤシライスやプリンなどのメニューを注文できます。飲食で中断することなく、本を選び続けられるのです。
本が並んだ棚を巡ってみると、遊び心に溢れた見せ方を発見しました。天秤の皿の上に、真逆のタイトルの2冊『静寂とは』と『私たちにはことばが必要だ』が置かれています。また、コインロッカーの中に『アヒルと鴨のコインロッカー』が。そんな粋な計らいは、お客さんが「見つけた!」という驚きにつながり、人気のインスタスポットにもなっているそう。
約3万冊を誇る本棚の棚づくりでは、お客さんが「自分で選んだ」と実感できるような本の並びを心がけているそう。基本的に“1つの本につき1冊しか棚に置かない”のもそのため。ここでは本との出会いは一期一会なのです。
棚を分けるジャンルもあえて「文学」「ビジネス」「自然」「食」「映画」などとシンプル。細かいジャンル分けはされていません。こうした配慮からも、本を探し出す喜びが生まれているのですね。
こんな出会いもありました。雑誌棚で『月刊むし』という虫雑誌や『BIRDER』という鳥雑誌を見つけて、「こんな雑誌あるの?」とびっくり。大量に売れるわけではないけれど、一部で熱狂的ファンがいる良い本を仕入れることができるのは、「本を選ぶための最高の空間」の対価である入場料がそこに還元されているから。つまり入場料は、場作りだけでなく、本のセレクトそのものにも活かされているんです。
「自分たちは場を整えるだけ。お客さんには自由に文喫を使ってほしい。お客さんの数だけ使い方があると思っています」と伊藤さん。たとえば話題のNEWスポットだけあって、デートで来るカップルも多いそう。その一方、喫茶室を使って独自に、本の感想をシェアし合う読書会を行うお客さんも増えています。4月には「ナイトクルージング」という、平日19時以降限定で入場料が1,000円になる制度をスタート。また新しい使い方が生まれそうですね。
続いては、前回の記事でも触れた川口イチオシのReadin’ Writin’ BOOKSTOREさんに伺いました。(企画スタートのきっかけは、 をどうぞ)
Readin’ Writin’ BOOKSTOREの店主・落合博さんは、新聞記者として30年以上のキャリアを積んだのち、このお店を2017年4月にオープンしました。
「街の本屋が減っているとよく言うけれど、どういう店が潰れているかは、よく見ないといけないと思います。個人経営の小さな書店は、むしろ今どんどん増えていますよ」と落合さん。
話題の本や売れ筋の本ならば、大きな書店やECサイトで買えばいい。店主が自身のセンスで本をセレクトし、そこに独自のカラーが生まれるからこそ、それをいいと思ったお客さんが足を運ぶようになる。「本来、個人経営のお店はそういうもののはずですよね」と落合さんは言います。
落合さんが本を仕入れるときの条件は「自身が気になる本、読みたい本」です。売れ筋かどうかは気にしないし、「本を読まない人に本を読んでほしい」と大それた目標を掲げることもありません。だからターゲットはシンプルに、本を読むことが好きで、しかも落合さんのセレクションが好きという人。目利きのいる魚屋や肉屋、八百屋と同じというわけです。
棚づくりで大事にしていることは、「ファジーさ」だと言います。ファジーとは、あいまい、柔軟であることを意味する言葉。たしかに3,500冊ほどが並ぶという本棚にジャンル分類の札はなく、そのことでお客さんは「どうしてこの並びなんだろう?」と自然と考えさせられます。セレクトは落合さん自身のセンスですが、どう受け取るかはお客さんに委ねられるのです。
本棚にはときどき遊びもあって、たとえば樹木希林さん出演で映画化もされた『あん』の横に…『赤毛のアン』? これは「あん」「アン」という駄洒落つながりなのです(笑)。
そういうルールのなさ、ファジーさは文章にも重要なものだと落合さんは話します。記者職を退いた今も、「書く」ことは落合さんのライフワークです。だからこそ「書く」がテーマという本棚を入り口付近に設置したり、お店の中2階にある座敷スペースを使って落合さん自身がマンツーマンでのレッスンを受け付けたり。また売れっ子ライターさんたちを招いての、連続講座「ライターという生き方」も継続中です。
理想は、10人いたら10通りの読み方ができる文章。10人いたら10通りの読み方ができる本棚。すぐに物事を白黒つけたがる社会の中で、人々がじっくり考える時間をもってほしいという気持ちが大元にあります。
落合さんは「お客さんと接するのが好きだ」とも語ってくださいました。店内ではコーヒーやお酒も楽しめるので、一息つきながら落合さんと話すのを楽しみに来る人も多いそうです。もちろん、わたしもその一人。「書く」と「読む」、両方のプロフェッショナルである落合さんが、この店の一番の魅力であることは間違いなさそうです。
文喫とReadin’ Writin’を取材してわかったのは、文喫では空間がハブとなり、Readin’ Writin’では店長の落合さん自身がハブとなっているということ。空間あるいは店主が、本と人を繋げていたのです。なるほどお店づくりには、何によって映画と人を繫げ、出会わせていくのかという視点が重要なのかもしれません。
また、それぞれ異なる魅力を持つ2店ですが、共通していることがありました。
それは、買い取った本を売っているということ。通常本屋さんでは、委託販売が行われていて、売れない本は出版社に返品されることが多いのです。だから、今回の2店のように買い取ることで返品ができない状態にするということは、それだけ責任をもって、愛をもって本を扱っているということ。その情熱が、お店を訪れる人へも無意識に伝わっているのだなと感じました。
お店を始めるには、まず扱う商品やそれが好きな人々への思いがあってこそ。ではその思いをお客さんに体感してもらうためにはどういう仕掛けをするか、という発想につながっていくのです。
PINTSCOPE編集部の思いをお店というかたちで表現するなら、どういう仕掛けがあれば届けられるんだろう…? そもそもPINTSCOPE編集部の映画への思いとは、具体的に何なのだろうか…? そこをまずは編集部で改めて話し合う必要があるな…。PINTSCOPE SHOPへの道は、まだまだ続くのでした。
引き続き、読者のみなさまからの「映画を楽しむために、こういう場所があるとうれしい」というアイデアは随時募集中です! 是非、わたしたち編集部へメールをお送りください!!