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幸せになるには
まず「幸せに気づく」こと。
2020年。あまりにもたくさんのことが押し寄せた1年でした。振り返る余裕もない、というのが正直なところかもしれません。
このまま二度と元の生活には戻れないのではないか、これからもっと状況が悪化していくのではないか、まだまだ思いもよらない事態が襲ってくるのではないか。自他共に認める“タフな人間”の私にだって、そんな不安があります。2020年という一年は、もしかしたら「絶望の年」と表現することもできるのでしょう。しかし、ここに一筋の希望の光を射してくれる素敵な映画があるのです。
映画『食堂かたつむり』(2010)の主人公である倫子は、幼い頃から料理をするのが大好きで、いつか自分の店を持つことを夢に、料理人をめざして仕事をしていました。そして、その仕事場で出会ったインド人と恋に落ちて同棲を始めるのですが、インド人の彼氏は、倫子が今まで貯めてきたお金と、家にあるものを持って姿を消してしまったのです。私なら「返して」と、地獄の果てまで追いかけるところですが(笑)、繊細な倫子は、ショックのあまり心因性失声症となり、声を失ってしまいました。
お金だけでなく、声までも失ってしまった倫子は、生きるために仕方なく、不仲な母親が住む田舎へと帰ることにします。これから夢に向かって頑張ろうというときに、まさかの事態。倫子にとっては、まさに「絶望」だったでしょう。田舎に戻ってもなにもやる気が起きず、ただ時間が流れるのを待っているような、無意味な毎日を送っていました。しかし、都会から離れて日々を過ごす中で、この田舎には色とりどりで新鮮な食材がたくさんあることに気づきます。そして、倫子は自分の状況に絶望するのをやめ、この町で自分のお店を開くことを決めました。前を向くことを決意したのです。そして、一日一組だけのメニューのない「食堂かたつむり」をオープンしました。この料理がいくつもの奇跡を重ね、いつしか、倫子の料理を食べると幸せになる、と囁かれるようになっていきます。
今回、この映画を久しぶりに観終わってすぐは、「よーし、私も倫子みたいに希望を持って頑張るぞ!」と素直には思えませんでした。だって、あくまでフィクションだから。現実の世界はそんなにうまくはいかないんだぞ、って。よっぽど疲れていたのか、そんな風に歪んだ気持ちになってしまいました。しかし、しばらく時間が経つうちに、少しずつ、倫子が自分の周りに目を向けてみたように、「ちょっとした幸せ」に気づくようになったのです。本当にちょっとしたことですよ。空が青くて綺麗だなとか、今日のご飯はうまく炊けたなとか。
これが結構すごくて。ちょっとした幸せなんて案外いろんなところに転がっているんですよね。拾い切れないくらい。これに気づくか気づかないかは、まさに自分次第。私は、ここしばらく見落としていました。周りに目を向けることもなく、自分ばっかり大変なんだ、辛いんだって。そんな人のもとに、幸せもなにもやってきませんよね。幸せだって、幸せを大切にしてくれる人のところへ行きたいはずです。
いろいろあった2020年がもうすぐ終わります。思うようにいかなかったこともたくさんありました。そんな中で『食堂かたつむり』は、幸せは気づかないだけで案外、自分の周りに転がっているんだよ、この先にはきっと希望があるんだよと教えてくれました。コタツに入って、DVDをつけて。あ、お布団があたたかいな、みかんが甘くておいしいな。そんなことも、私にとって“大切にしたい幸せ”なんですよね。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
- 「どんな自分も愛してあげよう」 肩の力を抜くことができた『HOMESTAY(ホームステイ)』
- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
- 90分でパリの100年を駆け抜ける!物足りない“現在”を笑って肯定しよう!!『ミッドナイト・イン・パリ』
- 映画の物語よりも、そこに流れる「時間」に没入する 『ビフォア・サンセット』
- 慣れない「新しい生活」のなかでも、人生に思いきり「イエス!」と言おう!『イエスマン “YES”は人生のパスワード』
- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
- 人に嫌われるのが怖くて、自分を隠してしまうことがあるけれど。素直になりたい『トランスアメリカ』
- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
- 僕が笑うのは、君を守るため。 笑顔はお守りになることを知った映画『君を忘れない』
- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
- “今すぐ”でなくていい。 “いつか”「ここじゃないどこか」へ行くときのために。 『ゴーストワールド』
- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
- 大人になって新しい自分を知る。 だから挑戦はやめられない 『魔女の宅急便』
- ティーンエイジャーだった「あの頃」を呼び覚ます、ユーミン『冬の終わり』と映画『つぐみ』
- 振られ方に正解はあるのか!? 憧れの男から学ぶ、「かっこ悪くない」振られ方
- どうしようもない、でも諦めない中年が教えてくれた、情けない自分との別れ方。『俺はまだ本気出してないだけ』
- 母娘の葛藤を通して、あの頃を生き直させてくれた映画『レディ・バード』