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一人で映画館に行く「楽しさ」と同居する「悩み」
こんにちは。PINTSCOPE編集部の鈴木隆子です。
みなさんは映画館へ、一人で行きますか? 誰かと一緒に行く方が多いですか? 私は一人で映画館に行くことが圧倒的に多い「一人で行くのが好き派」です。急に思い立って「今日行こう!」となったり、スキマ時間を見つけたらその時間に合う上映中の作品を探して行ったり、自由気ままに映画館へ向かう感覚が好きなのです。
しかし、一人で映画館に行って映画を観たあと、「この感動を分かち合いたい」「あの場面の解説が欲しい」「私の解釈これで合ってる?」などなど、これらの想いを抱えたまま帰路につくことがよくあります。
SNSやネットでちょっと検索すれば、レビューや解説、考察などの情報を簡単に手に入れることができますよね。でも、情報を得るだけより、自分が感じたことやわからなかったことなどを誰かと話して照らし合わせたりできると、より理解が深まって作品の記憶が強く残ると思うのです。
そんな中、横浜の若葉町にある老舗のミニシアター「ジャック&ベティ」のSNSで、「映画を観て話をする会」なるものが開催されると知り、これはまさに、よく一人で映画館に行く勢のモヤモヤを解消してくれる会なのでは!? と、早速このことを編集部内でアイデアを持ち寄ってアップするチャットにあげました。すると、編集長から「ぜひ取材をして記事にしたい!」ということで、「ジャック&ベティ」に連絡を取り、参加させていただくことに。
映画館が主催する「映画のお話会」とは、どんな会なのでしょうか?
参加してみて実感。
初対面の人とでも映画でつながることができる
映画を観たあと、なんとなく自分の感想を確かめたくなって、ネットのレビューサイトをディグってしまう…あるあるですよね? 「映画を観て話をする会」を始めたきっかけは、そこにつながるジャック&ベティのスタッフの実体験に基づいているそうなのです。
ある時、映画を一緒に観た友人と、鑑賞後に作品について話したところ、自分の考えにはなかったことや人それぞれの解釈を聞くことができ、「これってすごくいいな」と思ったのだそう。そういう場を映画館自身がつくりだしてもいいのでは? ということで始まった企画は、今回で第三回をむかえます。
第三回目で取り上げる作品は、世界にうまく馴染めない、ふたりの少女の分かれ道を描いた『ゴーストワールド』です。22年ぶりのリバイバル上映となる本作は、公開前からSNSなどで往年のファンたちによる盛り上がりを見せていました。(ちなみに、第一回はフランソワ・トリュフォー監督の『大人は判ってくれない』、第二回は宮崎駿監督のアニメ『ルパン三世 カリオストロの城』。全三回のラインナップを見ただけでも、ジャック&ベティが上映作としてセレクトしている作品の幅広さが伺えます!)
私は『ゴーストワールド』を映画館で観るのは約3年ぶり。またスクリーンで観られるのがうれしくて、そして今回は上映後に観た人たちとこの作品について語れるということで、ワクワクしながら映画館に向かいました。上映時間が近づくにつれ混み合うロビー。(満席でした!)早めにパンフレットをゲットして準備万端です。
上映後に参加者はロビーに集合し、会場となる喫茶店へ向かいます。お店はいつも、映画館のある若葉町周辺に根ざした場所からセレクトしているとのこと。ちなみに募集人数は毎回5名ほどだそうで、ゆったりとお話しできそうな規模感です。
また、映画にそこまで詳しくないという理由で恐縮してしまったり、話しづらかったりすることがないよう、基本的には毎回取り上げる作品についてを話すことにしてるそうです。
今回参加されたお客様は6名、幅広い年齢の人が集まっていました。今作については、公開当時(日本初公開は2001年)に観たことがある人と初めて観る人がちょうど半々。また、ミニシアターで映画を観るのが初めて、初めてジャック&ベティに来たという人もいらっしゃいました。確かに、ミニシアターに興味はあるけれどなかなか踏み出せない人にとって、この会は背中を押す機会となるかもしれません。
参加してみようと思ったきっかけを伺ったところ、「よく一人で映画を観に行くけど、解消できない想いがあったりする。この会で初めて会う方と作品についてお話しすることで、人それぞれの視点を知れるんじゃないかなと思った」という声があり、そういう想いを抱えた人はジャック&ベティのスタッフや私だけではないことを知れて、なんだか心強い気持ちに。
お互い軽く自己紹介をしたら、ジャック&ベティのスタッフ・鈴木さんの進行で会がスタート!
好きなシーンや劇中で気になった音楽、ファッションの話題のほか、主人公イーニドに自分を重ねたという人の感想などを聞いていくことで、作品についての理解がどんどん深まっていく感覚がありました。また、ある参加者の「どういう意味かがわからないシーンがあった」という疑問には、別の参加者の解説が加わるなどして話が発展していき、「なるほど! そういうことか」と作品の解像度が上がっていく場面も。
ある映画を観たとき、どこに注目して観ているか、どの登場人物に共感しているかなどは、人それぞれなので、参加者の話を聞くと、一人で味わったときには気づけなかった作品の魅力を発見することもできました。
会の最後には、「本当は誰かと喋りたいと思いながら映画館をあとにすることって多いんです」と、これまでの満たされない想いをこぼす人も。わかります! 誰かとこの映画について話したい! でも話す人がいない! となって、ネットでレビューなどを検索しちゃうんですよね…。
また、「映画館を出たらもう一生会わないかもしれない人たちが、同じ時間、同じ場所で同じ作品を一緒に観ているって、実はすごい面白いことですよね」という感想もあがりました。映画館で映画を観ることの魅力は、そういった偶然性にもつながっているのかもしれません。
街に根ざしたミニシアターだからこそ、できること
ひととおり復習を終えたら、ロビーで映画談義がもうひと盛り上がり! コロナ禍を経たことで、映画の感想を直接シェアしあえることの尊さを改めて実感したひとときでした。
こちらは前田亜紀監督『NO 選挙, NO LIFE』
ジャック&ベティは、「横浜名画座」が終戦後に接収され、米軍の飛行場として使用された跡地に建てられてから現在まで、この横浜の地の映画文化を守り続けています。
支配人の梶原俊幸さんは、これからも街の小さい映画館でなければできないようなことを続けて、お客さん同士コミュニケーションを図れるような場をつくっていきたいとおっしゃっていました。
街のミニシアターには、映画を観に行くだけではもったいない、沢山の楽しみ方が用意されています。映画館のスタッフの方たちが、いかに映画を楽しんでもらおうか、映画を好きになってもらおうかと創意工夫し、独自の企画や空間づくりにはそれぞれの映画館の個性が表れています。
あなたの住む街や近くに、まだ行ったことのないミニシアターがあったら足を運んでみて、その空間をぜひ味わってください!
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ジャック&ベティは、映画館存続のためクラウドファンディングを実施しています。
全国のミニシアターはコロナ禍で大きな打撃をうけ、その余波は行動制限が解除されたあとも続いています。71年という長きにわたり、独自性のあるラインナップで多様な映画を広めてきた映画館を今後も変わらず続けてもらえるよう、ご興味のある方はぜひご覧ください!
(クラウドファンディングはこちらから)