そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
ついつい、“本当の自分”を隠してしまうことって、ありませんか? 自分の意見を主張したら嫌われるのではないか、ありのままの自分を見せても受け入れられないのではないかと不安になってしまうからです。“本当の自分”を隠してしまうのは、その相手が自分にとって大切な人だから。でも、だからこそ、お互いに良いところも悪いところも全部さらけ出し受け止め合い、まるっと愛せるような関係を築きたいと、本当は思っているのですが…。
そんな理想を現実ではなかなか実行できず、もどかしさを感じていた時、一本の映画に出会いました。アメリカ横断の旅に出る親子を描いた『トランスアメリカ』(2005)です。今作には、大切な人と関係を築くためのヒントが隠されていました。
主人公は、自身の性別が男性であることに違和感を持つ、トランスセクシュアルのブリー(フェリシティ・ハフマン)。ある日、ブリーのもとに、トビー(ケヴィン・ゼガーズ)という少年からニューヨークで警察に捕まったという連絡が入ります。彼は、自分の父親である“スタンリー”と話したいと言うのです。その名前は、ブリーが男性として暮らしていたときの名前でした。この時初めて、息子の存在を知ったブリーは戸惑いながらも、彼を保釈するためニューヨークへ向かいます。そして、息子と対面したブリーは、自分が父だと明かさないまま、二人でニューヨークからロサンゼルスへの大陸横断(=トランスアメリカ)の旅に出かけることを決めるのです。
私は、旅の道中でブリーが“本当のこと”を話せないでいる姿に、いつしか自分自身を重ねていました。そして、自信のない自分を見せられているような気がして、だんだん居心地が悪くなってきたのです。と同時に、誰かを信じられない時とは、実は自分自身が傷つくのが怖い時でもあるのだなと、客観的に自分を捉えられたような気がしました。
ついにブリーは“本当のこと”を息子に話すのですが、彼はそれを受け入れられず、二人の関係は破綻を迎えます。しかし、それから時間をおいて、再開の時が訪れます。そんな二人の姿は、少しぎこちなくもありますが、お互いに認め合っている“本当の関係”に、私は見えました。
“本当の自分”をさらけ出したり、本心を打ち明けたりすることで、傷つくことがあるかもしれません。もしかしたら、その結果、離れてしまう人もいるかもしれません。けれど、本当に大切な人とは、多少ぶつかりあったとしても、お互いのどんな姿も受け止められる関係でいたいと、二人の姿を見て改めて思いました。
理想の関係は待っていても手に入れることはできません。ブリーのように自ら行動に移すことで「築いていくもの」。自分をさらけ出すということは、とても怖いけれど、それ以上に本当の自分を隠し続ける人生のほうがずっと辛いはず。たとえ、ブリーとトビーのようにお互いを理解しあうことに時間がかかったとしても、大切な人との未来を考えるのであれば、その方がずっといい。
だから、自分自身を隠してしまいそうになった時は、ちょっと立ち止まって、二人が再会した時の姿を思い出し、素直な自分を出してみたいと思います。
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