そんな自分にとって特別な、そして誰かに語りたい映画体験記。
リスタートを切りたい、一度整理したい、というあなたの心にぴったりの一本が見つかるかもしれませんよ!
ラジオから、松任谷由実さんの『冬の終わり』が聴こえてきたので、ふと原稿を書いていた手を止め、耳を傾けました。なんだか久しぶりにこの曲を聴いたような気がするな…と浸っていると、いつの間にか「あの頃」にトリップしていたみたいで、気づくと曲は終わり、番組パーソナリティーのユーミンによる曲紹介が始まっていました。ユーミンが、その時の季節や気になるテーマをピックアップして楽曲をセレクトしている番組らしく、今回のテーマは「ティーン」。
どうやら歌手のaikoさんもこの曲を好きなようで、「私も…」と勝手になんだか誇らしい気持ちに。一人でニンマリしていると、ふいにスマホが鳴り、aikoさんが『冬の終わり』を好きな理由を聴くことはできませんでした。
私にとって、ティーンエイジャーだった「あの頃」は、いつも焦燥感に駆られていて…そう、『冬の終わり』の一節のように、「わけもなく不安だった」時間のように思います。
そんな「あの頃」の、圧倒的焦燥感の中に取り残されている夢を、私は定期的に見ます。あれから、もう20年も経とうとしているのに、いまだにそんな夢を見るのです。まだ受験が終わっていない、右に行くか左に行くのか将来が決まってない「あの頃」に、“まだいる”夢。未来は決まってないけれど、それは私に委ねられている、それだけは確かな「あの頃」の。とにかく焦っていて、でも自分ではどうすることもできなかった「あの頃」の。
もうとっくに人生におけるすべての受験を終え、私は自分の足で社会を歩んでいる、そのことに夢から覚めた後、ベッドの周りをぐるりと見てようやく気づきます。そして、「よかった」と深く安堵するのです。そんな夢を時折、でも定期的にみるのは、私にとってあの頃の焦燥感が、忘れられないほど深く私に刻印されているからなのでしょう。
その“忘れられないでいる”焦燥感は、私にとって「あの頃」特有の友人関係とつながっている気がします。もしかしたら、その関係性こそ忘れられないものなのかもしれない…。そのことに気づいたのは、市川準監督の映画『つぐみ』(1990)を観ている時でした。
私はこの映画を観ると、『冬の終わり』を聴いた時と、あの夢を見た時と同じような感覚を味わいます。映画の中で描かれる登場人物のように、海の見える旅館で生活したことなんてないし、身体が弱かったことも、犬を飼っていたこともないのに不思議です。何がトリガーとなって、「あの頃」の焦燥感を私に呼び覚ますのでしょう。この映画の中に、私との共通点を見出すとするならば…なるほど、私も、つぐみ(牧瀬里穂)やまりあ(中嶋朋子)のように、姉妹のようでも恋人のようでもある“女友達”がいました。そういえば、『冬の終わり』も「あの頃」特有の、微妙で繊細な女友達との関係を描いた歌でもあります。
私の好きな作家である吉野朔実さんは、漫画『恋愛的瞬間』の中で「友情は 相思相愛でありながら 抵抗によって達成できない疑似恋愛関係」と表していました。まさに、「あの頃」の女友達との関係は、疑似恋愛関係だったと言えるでしょう。あんなにいつも一緒にいて、笑いあって、傷つけあって、濃密に誰かと関係を築くことなんて、多分もうないんだろうな…。
ニキビ跡のある肌、オンザ眉の前髪、女友達と喧嘩した時の表情、親と喧嘩した時の表情、母が繕い物をする姿、朝日が差し込む自分の部屋…試験休み、帰り支度の教室、あなたの文字、ノートを借りたあの日、木の芽の香り、冬の終わり…。そんなひとつひとつの記憶の断片が、この季節にのってひとつになる時、私は「あの頃」にトリップするのです。今日、久しぶりにあの娘へ連絡してみようかな。そんなことを思った春のはじまりでした。
- 介護の中、夢を捨てずにいられたのは、あいつの「ただいま」が希望に向かわせてくれたから。映画『大脱走』
- 眠れない夜に私を救ってくれたのは、70年前の名作ミュージカル映画だった 『雨に唄えば』
- ままならない家族への感情……それでも確かに愛してる。『シング・ストリート 未来へのうた』で描く私の夢
- 嘘の中の紛れもない「リアル」。 いつまでも彼の踊る姿を観たいと思った 『リトル・ダンサー』
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- 映画って、こんなに自由でいいんだ。そんなことを気づかせてくれた『はなればなれに』
- 日々の選択を、愛ある方へ。自分を大切にするための映画『パパが遺した物語』
- 大丈夫。あなたが私を忘れても、私があなたを思い出すから 『43年後のアイ・ラブ・ユー』
- どうしたら色気を醸し出せるのか!?核心を隠すことで見えてくる、エロティックな世界『江戸川乱歩の陰獣』
- 幸せになるには、まず「幸せに気づく」こと。こんな2020年を希望にかえて締めくくる『食堂かたつむり』
- 仕事も休めばいい、恋もなんとだってなる。人生の舵は、自分が握っているのだ『嗤う分身』
- 号泣したワンシーンが、思いを届けるきっかけになる『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
- 「私の人生、まんざらでもないのかも」見過ごしていた“当たり前”に魔法がかかる『顔たち、ところどころ』
- 東京という大きな「生き物」が、 人生の岐路に立つ人を静かにつつんでくれる『珈琲時光』
- 狂気を殺さない!愛してみる。生きていく『逆噴射家族』
- 動き出さない夜を積み重ねて、たどり着く場所がきっとある『ナイト・オン・ザ・プラネット』
- 時代の寵児バンクシーの喜怒哀楽や煩悶を追体験!?観賞後スカッとするかしないかは自分次第… 『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
- 「帰省」を疑似体験。離れて暮らす父親の素っ気なくも確かな愛情『息子』
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- 夢や希望、生きる意味を見失った時、再び立ち上がる力をくれた映画『ライムライト』
- 人の目ばかり気にする日々にさようなら。ありのままの自分が歩む、第二の人生。 『キッズ・リターン』
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- 成功は、競争に勝つことではない。 「今を楽しむ」ことを、教えてくれた映画『きっと、うまくいく』
- それぞれの場所で頑張る人たちへ 「声をあげよう」と伝えたい。その声が、社会を変える力につながるから『わたしは、ダニエル・ブレイク』
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- 心に留めておきたい、母との時間 『それでも恋するバルセロナ』
- 「今振り返っても、社会人生活で一番辛い日々でした」あのときの僕に“楽園”の見つけ方を教えてくれた映画『ザ・ビーチ』
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- 極上のお酒を求めて街歩き。まだ知らなかった魅惑の世界へ導いてくれた『夜は短し歩けよ乙女』
- マイナスの感情を含む挑戦のその先には、良い事が待っている。『舟を編む』
- 不安になるたび、傷つくたび 逃げ込んだ映画の中のパリ。 『猫が行方不明』
- いつもすぐにはうまくいかない。 自信がないときに寄り添ってくれる“甘酸っぱい母の味”『リトル・フォレスト冬・春』
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